第30話 個性それぞれ
(30)
翌日、学校は一斉休校になった。
事情はメールの通り、大阪市内のアート建造物に爆弾が仕掛けられたというニュースが流れたためだ。その為、市内に通う学生は自宅にて待機という形になった。
(…爆弾)
真帆は待ち合わせのコンビニでアイスコーヒーを飲みながら、その事を考えていた。
(中々ないんちゃう…そんな事)
コンビニの窓から外を眺めれば爆弾ニュースを受けた為か、時折、警らするパトカーが過ぎて行くのが見えた。
(ほんまドラマよねぇ)
真帆は昨日、そのニュースを甲賀から受けてから数時間後、学校から連絡をうけた。
――明日の特別講義は休み。以後は様子を見てから。
一瞬、ほくそ笑んだかもしれない。
それから何処か浮つく自分を押さえれないのは、やはり正直に夏休みと言うのが自分に与えられたのだという嬉しさとわくわく感がそうさせてるのだろう。
例え一日しか休みが無くても、それでもやはり、夏休みは
――嬉しいやん。
真帆はやや広がりのあるクリーム色のワイドパンツに白のシャツ姿でコンビニのイートインコーナーから外を見ている。
眩いばかりの陽の光の中で行き交う人々の顔を見ていると自分も早くその人たちに交じりながら、夏を感じたくうずうずしているのだが、待ち人は今だ来ない。
別に待ち合わせの時間に遅れている訳では無いが、浮つく真帆の気持ちからすれば、夏の始まりを待たせているという事だけでもう既に「遅刻」と言っても良い。
つまり既に真帆の気分としては
――処刑やな…あの二人は
である。
「よっ!!悪い」
コンビニのドアが開いて入ってきたのは甲賀だった。いつも通り髪型をきちんと整え、今日は白いTシャツに細めのパンツ、そして足元はスニーカーと言うラフな格好で現れた。
「いや、時間ギリやったね」
(…まず処刑する奴、一人目)
真帆は甲賀を見て、ほくそ笑む。何か企てを考えてやろうという悪い奴の目だ。その目が甲賀の目と合う。
それを見て「あれ?」と甲賀が言った。
真帆が反応する。ほくそ笑んだ奥底の悪意を見抜かれたのかもしれない。だから低く、悟られないように言う。
「何よ…」
すると甲賀がまじまじと真帆に顔を近づける。眼鏡越しに目が真帆をフレームインしているのか、パチリと瞼が閉じてシャッターが切られた。
「ちょっ…何?隼人」
「…いや、真帆。メイクしてるん?」
「えっ!?」
…で、ある。
そう甲賀の指摘通り真帆はメイクをしている。正直、メイクをしてはいるが上手くいっているかどうかは分からない。
百貨店の地下化粧品売り場で少し教えてもらった程度のメイクだ。
自分を綺麗に見せる技術はまだたどたどしいかもしれないが、それでも今日の「夏」の為に自分でメイクをした。
それを甲賀が瞬時に見抜いたのだ。
なんか、突然、技能試験を受けてその結果を聞くようなそんな緊張感が真帆を襲った。
「良いやん。綺麗、今日の真帆。大人じゃん」
甲賀が言って微笑する。
それを聞いて瞬時に真帆の身体の緊張が解けた。ほっとする気持ちと共にどこか照れた自分が現れる。現れると、何故だろう急にツンとしたクールさを装いたくなって、甲賀に向かって言った。
「…まぁね。自分でも目元とかいいかなと思ってる」
言いながら真帆は心の中で言う。
(――隼人、処刑なし)
…となると、後は一人だけ。
するとコンビニのドアが開いてコバやんが入って来た。コバやんが手を上げるのと同時に二人が振り返った。
振り返った二人は次の瞬間、思わず「えっ!!」と言って笑い、真帆はアイスコーヒーを吹き出しそうになった。
入って来たコバやんは何と草履を履いて股引に法被と言う、これから祭りにでもでかけて神輿でも担ぐのかという格好だったからである。
二人の意表を突いたコバやんは、どこか満足げに二人に頷くと何事も無かったかのようにコンビニで水を買って、一口ごくりと飲んだ。
勿論だがコバやんは知らない。
笑いを取った彼が真帆の「本日の処刑リスト」から瞬時に削除されたという事を。
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