第23話 先触れ



ベニカたちとの遭遇から10日経ち、未だ私は要塞都市クステンでダンジョンの宝を狙って何度も潜っていた

初回のように地図作成や魔物観察をせず、戦闘すら避けて5階層より下の宝のみを持ち帰ることを繰り返し、知らぬ間に周りの冒険者から疾駆する盗賊妖精バンディット・エルフなる通り名を付けられていた

盗賊とは少し聞こえが悪いがわざわざ否定するほどでもないので勝手に呼ばせている



それに加え、先日組合に提出した情報の精査に何故か私自身が付き添い組合員を案内・護衛するという依頼を受け完遂した結果、B級へと昇格した

フェイルはソロの冒険者がB級に上がるのは珍しいことなのだと私以上に喜んでいた

あとおまけの情報として、ベニカたちといえばあの3人は治療室で目覚めた後少し暴れたらしいが組合長に黙らされ、王都に送り返されたと教えてくれた、おそらく鍛え直すためであろうとも



聞けばベニカたちはあれで中々の実力者らしく、少し前から王都からの派遣という形で王国各地での魔物・魔獣の討伐、ダンジョンの調査、国境付近での他国への睨みなどを行っていたが、私に完敗してしまった事実が大勢に見られ、指示を仰ぐという名目のもと送り返された

その王都で誰に師事しているのかは知らないが、ベニカという原石を磨いてくれることを願っているよ

この日もいくつかの宝を鑑定に出し、いくつかは買い取りに出し、おもしろいものは引き取る、が、目新しいものが減ってきたのは事実、そのことをフェイルに話したところ・・



「エレジーさん、出て行、くんですか?わっ、たしに何か不満が?」

と、声を震わせ見るからに動揺し、目を潤ませている

このオーバーリアクションにも慣れてしまったな

「何度か言ったが私は蒐集家コレクターだ、新しいもの、珍しいものがないと生きていけない、こういう嗜好のやつは1箇所に留まることができないんだ」

「ううっ、残念ですが、エレジーさんには嫌われたくないので協力します、ちょっと待っててください」

フェイルは受付から奥へと向かい、地図を持って戻ってきた、ついでに顔も整えてきたようだ

地図を広げ話し始める



「ここがクステンですね、ご存知のように王国最大のダンジョンを有しています、・・有していました」

「ん?過去形なのか?」

「エレジーさんのおかげですよ、ご存知のように未攻略でも王国最大のダンジョンと称していたのは1階層あたりの面積で最大という意味でした、階層の数はわからなかったんです、しかし、エレジーさんが攻略され7階層が最深と判明しました、よって、もし他の未攻略ダンジョンの階層がここよりも深い場合、もしかしたら王国最大のダンジョンの名を移す可能性も出てきたわけです」

「未攻略で最大を名乗るのがそもそもおかしい話だが、この際いい、続けてくれ」

「はい、それで現在未攻略かつ、判明している階層の最も深いダンジョンがここ、港街コービンにあるダンジョンです、詳しい情報はわかりませんが現在の到達最深階層が9階層、加えて海岸にあるため干潮時のみしかダンジョンに入れないそうです」



地図を指でなぞり海岸線で止まる、またかなりの距離だ

マートリの街・・ほどではないように地図上では見えるが最短距離には川と峡谷を超えなければならないようだ

フェイルの指は峡谷を大きく迂回していた、つまり馬車はそう通るのだろう、その道筋では10日はかかりそうだ

峡谷を指差す

「ここは超えられないのか?」

「ポルト峡谷ですね、少なくとも馬車では不可能ですね、前例は一度もありません、魔物と魔獣のみが生きる地域で昼夜の寒暖差も大きく、人族には辛い土地です、冒険者を含めて何人もここで命を落としています、当然居住している人族など存在しませんし開拓もされていません」

フェイルは要項を全て伝えたのか地図から顔を上げ『どうしますか?』と目で伝えてくる、反応を見ている、私の蒐集心はどの程度のものまで食指を伸ばすのかを



「その情報、とても役に立ったよフェイル」

「ありがとうございます、・・お気を付けて」

後ろ手に手を振り組合から出て行く、やはり察しのいいやつだ、上手く立ち回って次にこの街に来た時も生きていてほしいものだ、賢い者ほど損をするのが人間の形成する社会というものだからな



「(とはいえ途中までは馬車で行くか)」

地図上では川を越えた先、峡谷との間に街があったのでそこを通る馬車を探すため歩き出すと

「お前がエルフ族冒険者のエレジーだな、領主様、プドゥール侯爵閣下がお呼びだ」

横から金属鎧と斧槍を装備した2人組が声をかけてきた



=============================================



「名前はエレジー、C等級の冒険者となり要塞都市クステンへ移動か」

ディレクの街でレギンバースと別れマートリの街へ到着したミーンジャースは民や冒険者へ聞き込みを行うと簡単に情報を得ることができた

冒険者曰く、とんでもない魔法の使い手

民曰く、いい意味でエルフ族に対する偏見が消えた

容姿に至っては自身の有するエルフ族の特徴が相似していたようなのでエルフ族の線は濃厚となった

だがエレジーという名には心当たりがない、もちろん自治区にそのようなエルフ族は住んでいない



「(どこからの流れ者だ?)」

ミーンジャース自身は訪れたことはないが王国以外の各国にもエルフ族は存在している、王国のように自治区を持たず、その国の民として生きているエルフ族もいると教わっている

「(だが、足跡は見えた、後は追いつくだけだ)」

ミーンジャースは足をクステンへと向ける

その距離はおおよそ7日まで迫っていた


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る