第20話 多人数戦



クステンの街から出て少し歩いた障害物の何もない平地、冒険者十数人の観客、その視線の先には1対4の構図で向かい合う者、組合長立会のもと、冒険者同士の決闘が行われようとしていた



「決着の条件は相手の降伏宣言、失神、死亡となる、この決闘の結果に異議を唱えるなんて恥知らずなことはするな、生き恥を晒すくらいなら潔く死ね、・・では両者構えろ」

相手は4人、白鎧の男が片手直剣と盾を持ち、軽装の女が槍を持ち前衛、純白ローブの女と深緑ローブの男が長杖を持ち後衛か、バランスはまあよし

「エレジーさん、悪いが君は俺たちには勝てない、早めに降伏してくれれば・・」

「気安く私の名を呼ぶなよ、お前ら4人は私の敵だ、降伏勧告なんぞ無駄なことをするな」

私に見当違いなことを語りかけた白鎧は哀しそうに、他の3人は苛立つような表情を見せ各々武器を構える

私は片手にナイフを、逆の手に短杖を持ち、構える



「始め!!」

組合長の合図で決闘が始まる

短杖の存在を知らなかった4人は意表を突かれざわつき、初動が遅れる、戦闘において致命的な、初動の遅れを

「『解放リリースドッペルゲンガー』、全能力改良ステータスアップ・メガ

鑑定後に返却されてからナイフはとっくに解析が済んでいる、吸収した魔法の使用方法も、効率的な利用法もいくつか考案済みだ、今から行うのはそれのテストだ

ドッペルゲンガーを解放すると黒い靄が現れ4つに別れる、すると目の前の4人と瓜二つに模倣し武器を構える、その4体に全能力改良ステータスアップ・メガの魔法をかけ命令する



「奪い取れ」

私の合図でドッペルゲンガー4体はそれぞれが模倣元に攻撃を仕掛ける、4人は完全に隙を晒しており一撃をもらい防戦一方の初動となる

後衛の2人には魔法を使わせないよう杖術や棒術のような動きで接近戦を行い、前衛の2人にはあえて強くは踏み込まず、動きを牽制、制限するような動きに徹底させる

お互いにカバーに入らせないようにし、そこを私が1人ずつ仕留めていく

「『瞬迅ブリンク魔力雷矢エレキボルト』」

「アッグァっ!コッ!・・」

まずは1人、純白ローブの女の脚に魔力雷矢エレキボルトを撃ち込む、痛みと痺れで動きを止めたところにドッペルゲンガーが側頭部に長杖のスイングを叩き込むと女は受け身を取ることもなく地面にキスをかます、女はそのまま動かなくなる

「ミユキッ!ッグぅ!」

白鎧が気を取られドッペルゲンガーから浅いが一撃を貰う、ドッペルゲンガーはそれを見て愉しそうに嗤う

「くっ!ぉぉおおぉぁあぁ!!」

「『魔力衝撃弾インパクトバレット方向制御ベクトル・コントロール』」

白鎧は単純すぎるな、仲間に気を取られて周りが見えなくなる、だからこうも簡単に魔法が当たる、真横から魔力衝撃弾インパクトバレットで弾き飛ばす力を与え、方向制御ベクトル・コントロールで90度方向を変え、かなりの勢いでドッペルゲンガーの正面に弾き飛ばす、その勢いに対応出来ず大きな隙を晒したところを盾で殴り飛ばす、白鎧が空中で1回転し地面に転がり失神を確認したところで首筋に剣を添え4人中2人が脱落する



軽装で槍持ちの女はドッペルゲンガー相手によくやっていた、全能力改良ステータスアップ・メガの効果で本人より強いにもかかわらず、反撃こそできていないがギリギリのところで躱し、いなしを繰り返し一撃も受けていない

「(こいつが要か)」

勘がいいのか、自分を客観的に見るのが上手いのか、自分の動きを完全に理解しているように見える、でなければドッペルゲンガー相手にここまで保たないだろう

だが最後はスタミナとそれに付随する集中力が切れ、攻撃を防ぐ際に槍を取り落としそのまま膝をつく、穂先を眼前に突きつけドッペルゲンガーが勝利する

「(ドッペルゲンガーにはまだまだ改良の余地があるな、さて、最後は・・)」

「ぐぶっ!!」

深緑ローブに目を向けると丁度ドッペルゲンガーの長杖が顔面中心にクリーンヒットした瞬間だった

割れた眼鏡、砕けた歯が飛び散りそのまま仰向けに倒れる

目を回したのか起き上がろうと藻掻くが、途中で体勢を崩し起き上がれず、地に伏せる

ドッペルゲンガーはとどめを刺そうと長杖を振りかぶる



「そこまで!!勝者はエレジー!!」

振り下ろす直前に止められたのが不服なのか、ドッペルゲンガーは舌打ちをし、長杖を肩へ担ぐと鼻を鳴らした

随分と生き物の真似が上手い魔法もあったものだな


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