第18話 遭遇



「キミッ!・・だよな?2階層で会ったよな!?」

3人の内1人が駆け寄ってくる、己の顔を指差し同意を求めるような、縋るような視線を向けてくる、合っていてくれ、否定しないでくれ、そんな意思が透けて見える

「ああ、確かにお前らが魔物の群れを討伐した後、声をかけて通った覚えがある」

「やっぱり!よかったぁ、まさかソロとは思ってなくてさ、あの後ちゃんと戻れたんだな、ああそう、俺はヘンリー、後ろの2人はカルロスとジョシュ、常勝ウイニングってパーティを組んでる」

「ぅむ」

「よっ!」

「エレジーだ、知っての通りソロだ」



受付の前で互いに自己紹介をする、しかしよく覚えていたものだ、灯りトーチと松明はあったとは思うが、たった1度すれ違っただけの冒険者を

「よろしくな、それでよかったらこの後少しでいいんだ、時間を貰えないか?いい時間だし昼飯でも食いながらさ、もちろん俺らの奢りで」

「ああ、それくらいなら構わんが少し待て、今は支払い待ちなんだ、すぐ戻ると思うが」

「買い取りしてたのか、いいよいいよ、そんくらい全然待つ」

そうしたらすぐにフェイルが革袋を持って戻ってきた、さっきまでいなかった後ろの3人に目を向けている

「エレジーさん、常勝ウイニングのみなさんと知り合いだったんですか?」

「いや、知り合いになったのは今だ、報告に出した2階層ですれ違ったと言ったのがこいつらだ」

「そうだったんですか、冒険者同士親交を深めるのはいいことだと思います、でも先に精算を済ませてしまいますね」

革袋と先程の売却額が記された同意書を渡され金額を確認する、買い取り額の9割を貯金、1割を受領、問題ないと言い革袋を腰のポーチにしまい同意書を返す



「どうだった戦果は?」

「なかなかだな、だがもう少し(階層が)あればよかったのにな」

「そうか?見た感じ(買取金額)多そうだけどな」

「・・すみませんエレジーさん、ヘンリーさん、多分ですけどお二人とも言葉足らずで噛み合ってないと思います」

フェイルは私に常勝ウイニングのみなさんは信頼できる方たちですので、とことわった上で簡潔に私のダンジョンでの行動を説明する、すると3人の表情は感嘆、驚愕、疑惑、不信と表情を変えていく

「えっなに、てことはこの人ダンジョンに潜った初日でこれまでの記録を塗り替えて、ダンジョンの終着まで行って戻ってきたって?、ソロで?」

「もちろん後日いただいた情報は精査しますよ、でも報告の内容はどれも明確でブレのないものですし、いくつかの物品も鑑定済です、わたし個人の意見になりますが嘘偽など一切ないと思っています」



ヘンリーを筆頭に3人は戸惑い、二の句が継げないようだ、まあ理解はできる

こいつらからしてみれば、ぽっと出の新米にあっという間に抜かされたのだからな、認めたくないのだろう、自分たちの価値を下げたくないから、誇りプライドがあるから

だが事実とは得てしてそのようなものなのだ、見たくない、聞きたくない、認めたくない

だからこそ人間は嘘を生み、虚構に縋り、夢に閉じこもるのだ

だが私はそれを否定はしない、それも生き方の1つであるし、そうしなければ生きられない者もいることを理解しているから

私は、私に不利益を与えない限り他者を否定しないとも



先程までの陽気な雰囲気はどこへやら、すっかり暗くなってしまった3人はどうするのかと見ていると組合の入り口の方がざわつく

そちらに目を向けると、やたらと目を引く、異質な4人組が入ってきたところだった

馬鹿みたいに目立つ白の鎧の男、同じく純白のローブに身を包んだ女、軽装に要所のみを守るプレートを装着している女、眼鏡をかけ深緑のローブを着た男が他の冒険者から遠巻きに見られながら受付へと歩いてくる

私から1番離れた受付へ行き、組合員が応対していると、ふと、深緑ローブの男がこちらを向く

「(微弱だが魔力を向けているな)」

エルフ族の目には魔力が見える、男の目から伸びる魔力が私に向かって伸び、触れられるほどの距離まできている、この魔力の流れと使い方は先程見た鑑定の魔法と酷似していると気付く



「(やはり物以外にも使えたか)」

半ば予想はしていたことであったがどこまで情報が相手に抜けるかはわからない、そんなリスクは負えない、よって私は手に魔法防護を施し男の魔力を跳ね除ける

「ガッ!!」

その瞬間、男はうめき声を上げ、大きく仰け反る、両目を抑え膝をつく

「ガク!?」

「キタムラ!?」

「キタムラくん!?」

3人が男のものであろう名を呼び、周りを囲い、顔を覗き込み声をかけるが男は痛みからか浅い呼吸を繰り返すだけで返事ができていない

1分程経ったあたりで男は立ち上がり、涙に濡れた怒りの表情で私に指を差してくる



「おいお前!僕の鑑定を弾いただろ!何のつもりだ!」

突然の大声に仲間であろう3人も困惑の表情で私を見てくる

「不躾な魔力を払い除けただけだが」

「僕たちはゴダット王国公認の勇者パーティだ!王国民には僕に協力する義務がある!布告を知らないのか!」

「私はエルフ族だ、この国の民ではない、だからお前の言う義務も私にはない」

私は少し首を傾け特徴的な耳を見えやすいようにしてやる、男は私の言葉が気に食わないのかボルテージを上げる

「エルフ族自治区は王国内の土地だろ!なら王国民として扱ってもいいだろ!」

「王国はエルフ族に対して不干渉だ、税金も取っていなければ交易もしていない、裁量権など当然ないし、自治区内に人族は1人も住んでいない、これでもか?」

男の身勝手な物言いに呆れながら答えると男はますます顔を赤くし長杖を握りしめる手に力が入っていく、ゆっくりと魔力を込めているのが見てわかる

「!おいっガクッ!」

「『火球ファイヤーボール!』」

それに気付いた白鎧の男が止めに入ろうとするが僅かに遅く放たれた魔法が私に向かって飛来する

咄嗟にフェイルは受付台へしゃがみ隠れ、ヘンリーたち3人は飛び退く

私は大型ナイフを抜き、迫る火球ファイヤーボールに切先を触れさせる

するとあの時のように火球ファイヤーボールは刃に吸い込まれるように消えた



「はっ、はあ?」

男は事態が理解できないのか長杖を構えたまま呆然としている

「ガクッ!何やってる!何やったかわかってんのか!」

白鎧の男が長杖を奪い取り投げ捨て、胸ぐらを掴む

「言ったろうがユースケ!その女は鑑定を弾いた!王国民なら・・」

「王国民じゃないって言ってたじゃないか、なのにいきなり魔法を撃つのはやり過ぎだ」

「エルフ族の自治区は王国の領土内だと教わっただろう!?なら・・」

「静かにしろ!!」

受付の奥からガタイの良い男が現れ一喝し男たちが黙る

周囲を見渡し掴み合ってる男2人とナイフを抜いている私に視線を向けたまま手招きでフェイルを呼び説明させる

「何があった?」


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