第17話 査定と鑑定



「ご協力ありがとうございます、これらに関して何かあればその都度ご連絡させていただきます」

「ああ」

地図は渡せばそれでよかったが魔物に関してはさすがにスケッチなどはしていなかったので私が特徴を伝え、それを絵にし、修正箇所を伝え、描き直し、を何度も繰り返し、私なりの合格ラインまでもってきた

何枚も紙を無駄にしたがこれまでもこの方法をとっていたようなので問題ないそうだ

「やっと聴取が終わったか」

「聴取じゃなくて情報の記録ですってば、次で最後ですよ」

「まだ残っていたか」

「あっ、今の物語の悪役の台詞みたいですよ」

「今じゃなければ1つノッてもよかったんだがな、今は無理だ」

「いつか見てみたいものです、では最後は宝箱から手に入れられた物品の鑑定、査定、買い取りですね、希望するサービスを受けられます、鑑定と査定は手数料をいただきますけどね」



詳しく説明します、と言い立ち上がり奥へと案内される

廊下を進みいくつかの部屋を通り過ぎ、1つの部屋の前で止まる、扉に掛かる金属製のプレートには関係者以外立入禁止と書かれている

フェイルは鍵を取り出し解錠し、部屋へと入って行く、私も続く

中はおおよそ5m四方の小さい部屋に、木製のテーブルが1つだけというなんとも殺風景な空間だった

「ここで鑑定や査定を行います、組合に雇われた鑑定士と呼ばれる職業の方とその護衛、そして拾得主の冒険者の3名立ち会いのもと行われます、ちなみに鑑定とは用途不明の物品を子細に至るまで詳らかにすること、査定はそれらの物品に値をつけることですね、基本は買い取りに査定はセットです」

「その鑑定士が結果を偽り、意図的に冒険者に損害を与えた場合は?」

「その辺りは組合を信用していただきたいのですが、もしそのようなことが起こった場合は損害の補填と賠償になりますかね、鑑定士はもちろん資格剥奪、財産差押の上労役辺りですかね、一応言っておきますけど、今までそのような事例はありませんからね」

その程度か、と思わなくもないが殺してしまうよりは消耗品として皆が避ける重労働を割り当てた方がまだマシという考え方なのだろう、犯罪者でも人族の発展の礎にしてやろう、と

「わかった、なら鑑定、査定、買い取りの全てをやってみようと思う」

「はぁい、ありがとうございます、鑑定士を呼んできますのでここで待っててください」

少しの間待っていると、フェイルが初老の男と中年の男を連れて戻ってきた、中年の男は剣を腰に携えているのでこいつが護衛なのだろう



「初めまして、組合で鑑定士をしとりますギュンターといいます、よろしくエルフ族の方」

「エレジーだ、こちらこそよろしく頼む」

軽く握手したあとギュンターは持ってきていた底の浅い木製のプレートをテーブルに2つ置く

「さて、片方に鑑定、査定をするものを置いとくれ、終わったものから結果を伝えてこっちに移す、全ての鑑定、査定が終わったら買い取りに出すものをまたこっちのプレートに戻しとくれ、よろしいかね?」

「ああ、わかった」

ポーチから出したのは5階層で手に入れ、7階層の魔物にとどめを刺した大型ナイフ、7階層で手に入れたバングル、魔晶石を小さいもの、不揃いなものから順に8割ほど出した

明らかにポーチの容量を超えており、訝しむ3人に人族には使えない魔法がかけてあると言って黙らせた



「かなり多いの、では魔晶石から始めようか、『鑑定眼アナライザー』」

男は魔法を唱えた後、魔晶石を1つ1つ摘み上げ質の良し悪しと買取額を口にし隣のプレートへ移す、10分ほどで全ての魔晶石の鑑定が終わった、続いて大型ナイフの鑑定へと移る

「ほお、珍しい能力が付いとるな、名付きネームドほどではないが一級品には違いあるまい」

「その能力とは?」

「刃の部分での魔法の吸収と放出だの、擬似的にだが相手の魔法を反射する、なんて使い方ができるかもしれんの、今はどうやら『ドッペルゲンガー』という魔法が入っておるようだが、・・知らん魔法だの」

「・・エレジーさん、その魔法って、もしかします?」

先程1から10まで報告をまとめたフェイルも私と同じ思考結果に至ったようだ

それ魔法じゃなくて魔物が入ってないですか?、と

確かにあいつはダンジョンの他の魔物と違い空気中に霧散するように消えたのではなく、ナイフに吸い込まれるように消えた



あいつは魔物ではなく魔法だった?だがこのナイフで他の魔物を倒してはいないので全ての魔物がそうなのか、あいつが特殊なのかは今は判断ができない、男に次を促すとナイフを置き最後の物品、バングルを手に取り、鑑定へと移る

「・・ほお、これは素晴らしい、正真正銘名付きネームドだの、『王妃のバングル』という名がついておる、あらかじめ魔力を込めておけば装着者の状態に応じて自動で状態異常回復キュア即時回復ヒール蘇生リザレクションが発動するようになっとるの、文句なしの一級品じゃろうて」

ほっほっほっと満足したように笑いバングルを置く、フェイルはその結果を聞き驚きに目を見開いている、男の言う通り相当な代物なのだろう



「2つ質問、名付きネームドとはなんだ?、あとバングルに彫られている文字らしきものは何かわかるか?」

「ふむ、ネームドとはそのままの意味で鑑定した時に名前が付いているものの総称だの、武具然り、このバングル然り、ただのバングルではなく『王妃のバングル』と結果が出る、それらは総じて何かに突出した性能を持っておるのが特徴だの、このバングルだと装着者を守ることに特化しておるの、武具の場合は昔に魔晶石を動力にして魔法を撃ち出す剣を鑑定したことがあるの」

「なるほど、ではもう1つの方は?」

「ああ、これは王が王妃に送った際の愛の言葉が綴られておるだけだの」

文字自体に魔法がかけられて綺麗に見せているだけらしく特に意味はないらしい

さて、ようやく全ての鑑定が終わったが私は鑑定眼アナライザーの魔法が使えないのでここは信用の有無もない、納得して売れるものは売り、売らないものは売らなければいいだけなのだ



よって、ナイフとバングルは売らずに引き取り、魔晶石は全て売却することにした

その場で総額の確認と売却の同意書にサインをし、支払いのために組合の受付まで戻ってきた

支払い額の大半はそのまま貯金するがある程度は持ち歩きたい、引き出す額を伝えると書類を持ってフェイルが奥へと引っ込む

「ああっ!キミっ!」

そのすぐ後に大きな声で私を呼んだのは2階層ですれ違った冒険者パーティだった


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