第16話 報告
「8日?」
「そうですよ、8日ですよ!8日間!ベテランの冒険者でもそんなに潜りませんよ、エルフ族ってどうなってるんですかぁ?」
フェイルに聞くところによればどうやら私がダンジョンに潜ってから8日間も経っているらしい、初挑戦の私は当日には帰ってくると思い、夜担当の同僚に引き継ぎをしていたが翌日の引き継ぎでは帰ってこなかったと報告を受けた
驚きはしたが1日くらいならと待ったが更に翌日も帰ってこない、さすがに慌てたが冒険者は基本何が起ころうとも自己責任、ただの組合員が勝手に捜索に人を動員させられるわけもなく、気落ちした毎日を送っていたのだと言う
「ダンジョンの中は時間のわかるものが何もないからな、仕方ないだろう?」
「にしても限度がありますよぉ」
「そもそも何故お前は私にそこまで固執する?、いや、私が固執していると感じているだけで他の冒険者にもそんな接し方なのか?」
「そんなわけないじゃないですか、エレジーさんだけですよ」
何を言っているんだ?、見たいな顔で私を見るな、その台詞と顔は私がするべきだろう?
「接客業に携わる者が客によって露骨に態度を変えていれば軋轢を生むぞ」
「大丈夫ですよ、みんなエルフ族に興味津々なんで、最初にわたしが応対した時すごく羨ましがられたんですから」
ここでもエルフ族の排他的な部分が変に働いているな、エルフ族を知っている身からすると排他行動とは愚劣な行為だと言わざるを得ない
他者という外的刺激を失い、平穏に生きる、1代限りであればいいのかもしれないが、それを続けるのであればもはや生物としての成長、進化を見込めなくなる、可能性が潰える、その先は衰退のみが待っている
「
「んー、まあ近いのかもしれないですね」
「まあ、すぐに慣れるさ」
「それまではわたしがしっかりと応対させていただきますね!それでどうでした?、初めてのダンジョンは、色々と聞かせて欲しいです」
「ああ、中々楽しめた」
私は一つ一つ思い出しながらゆっくりと語っていった
浅い階層を大回りしながら進み、初めて見つけた宝箱は罠だったこと、勧められた簡易魔物図鑑が役に立ったこと
2階層で魔物を屠っていた冒険者パーティの戦いを見たこと
5階層の魔物には有効打がなく、神聖や祝福の意味もわからず力押しで進んだこと、辺りの宝箱をようやく見つけたこと、地図を書き足したこと
最初にこやかに聞いていたフェイルだったが3階層、4階層の話しになると表現が引きつり始め、5階層になったところで遂に我慢できなくなった
「いやいやいや、待って、待ってください」
顔の前に掌を突き出すので話すのを止める
「初挑戦で、1人で、5階層まで潜ったんですか?」
「そう言ってる途中だが?」
「人族はできないんですよそんなこと、エルフ族のスペックって高いんですねえ、ちょっとだけ待っててください」
受付を離れ、奥にある棚から書類を束で持ってくる、どうやら白紙のようでペンとインクも用意し始める
「記録するのか?」
「はい、正直4階層までなら情報は揃っていると組合は判断しているのでここまでしなくてもいいんですけど、5階層はそうはいきません、地図は未完成、未確認の魔物もいるかもしれない、ともなれば組合としては冒険者から情報を受け、まとめるのも仕事の一環です」
先程までの表情とは全く違い、口調も少し変わっている、彼女なりの仕事のスタイルなのだろうか
「あっ、エレジーさん水飲みます?、ここからわたしの怒涛の質問攻めのターンですよ、喉枯れますよ?」
「・・ああ、貰おう」
水が運ばれてきてからはフェイルにとことんつきあわされた、途中から別の組合員が持ってきた椅子に座り報告を超えてもはや聴取の域に入った問答を続けた
5階層、6階層と詳細に訊かれたところは話し、7階層の終わりまで話した
フェイルがずっと走らせていたペンを置き、長く深呼吸し書類から顔を上げ、水に口をつける、私の方は既に空になっている
「・・いきなりとんでもないものをもたらしてくれましたね」
「他人の、それもたった1人からの情報を鵜呑みにするのは危険なのは理解しているな?」
「もちろんです、これらの情報は組合によって精査され確認がとれてから開示させていただきます、もちろんその際はエレジーさんに褒賞が支払われますので」
「ならいい、ああ、ついでだ、これもやろう、私はもう覚えたから必要ない」
5階層から下の地図を全て手渡す
「・・よろしいのですか?」
「私にはもう不要なものだ、役に立つなら使え、・・あと水のおかわりをくれ」
「ふふっ、お持ちしますね」
奥へ下がり、大きい水差しを持って戻ってきた
「では続いて魔物の情報をお願いします」
フェイルはペンを持ち直し、聴取はまだ終わらない
・・疲れたな
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