第15話 地上
「なんだ?」
手にの中のナイフを見ると入手時にはなかった白い小さな魔晶石が柄頭に埋め込まれていた
触ってみるが完全に埋まっており、取り出すことはできそうにない
「(まあいい)」
大型ナイフをしまい部屋の奥へと進むと小部屋があり、宝箱が置かれている
罠のチェック、ないことを確認し開けると中には拳大の魔晶石が1つとバングルが1つ入っていた
「(魔晶石か、今までの中で一番大きいな、あとこれは何だ?)」
バングルを手に取り見回したり、手首に着けたりしてみるが何かが起こったり、変わったりした様子は感じられない
銀色の本体、その内側に文字らしき意匠が赤金色で彫られている
その文字らしきものは読めないが赤金色の部分のみがゆっくりと動いているように見える、ずっと眺めていたくなるような、そんな不思議な意匠だ
ここでは答えが出ないので一旦魔晶石と一緒にポーチにしまい周囲の探索を続ける
その結果、先へ進める道は見つからずダンジョンはこの部屋が最後の部屋ということが確定した
「(ふむ、途中から時間を数えるのは止めてしまったが体感で数日は経っているくらいだろうか)」
途中からは地図を埋めながらの進行だったので余計な時間を取られてのおよそ数日なので最短距離で走れば数時間で地上まで戻れそうだ
まあ、魔物が道を塞がないことが前提条件であるが
それに死霊系の魔物には現状対抗手段がないので足止めで対応するしかない、それもまた時間を取られる要因なのだ
全階層の地図を読み込み、頭の中で最短距離を構築する
「『
組み終わり、魔法をかければ一気に駆け出す、一足飛びに階段を昇り、道中の魔物を
3階層を超えた辺りから何人か他の冒険者を飛び越え、驚愕の声を上げられたが魔物との戦闘中ではないので大目に見てもらおう
1階層の入り口付近まで戻ってくると走るのを止め歩き出す
地上への階段まで来ると空が見える、薄暗い青空が僅かに白んでいる、どうやら丁度夜明けの時間のようだ
「うおっ!?アンタ、生きてたのか!?」
外に出ると門の横の組合員が私の顔を見るなり驚いて大声を上げる
確かダンジョンに入る時にタグを見せた組合員のような気がする、はっきりとは覚えていないが
若干失礼な物言いに聞こえるがダンジョンに初挑戦して数日帰らなかったらそう言われても仕方ないか、この言葉で不機嫌になるのは少し理不尽だな
「ああ、問題ないと言っただろう?まあ、触りだけと言ったのは些か甘い表現だったのは理解している」
「いやっ、まあ、そうだな、大声出してスマン、だが生きててよかった、組合で受付業務を担当してるフェイルってやつがな、アンタが帰ってこないって毎日ソワソワしてんだよ、できれば早めに顔を出してやってくれ」
「そんなに懐かれるような覚えはないが、わかった」
男に背を向け組合へと歩き出す、同時に地平線から陽が昇り朝日が街へ差し込む、今からダンジョンへ潜るであろう冒険者たちとすれ違い建物へと入ると冒険者がまばらにおりそれぞれのパーティで話し合いをしているようだ
これから潜る相談でもしているのか、地図を広げている者もいる
先立って様々な取り決めをするのはいいことだ、不測の事態が起こった時こそ、真価というものが問われるものなのだから
そんな冒険者たちを横目に受付の前に立つ、下を向いて書類を作成しており私に気付いていない、受付台をノックするとビクッと顔を上げ私の顔を確認すると、一瞬目を見開き次には目が潤む
「あぁぁあぁ!エレジーさんんぁ!生きててよかったですぅあ!」
いきなり大声で鳴き叫び抱き着こうとしてくるが受付台があるのでそれは叶わず身を乗り出すに留まっている
それでも手を伸ばしてくるが私はギリギリ届かない位置に立つ
周囲の全員がフェイルを見て戸惑っている、当然だが
「ああフェイル、久しぶりだな、少し見ない間に随分とひどい顔になったな」
涙でクシャッとなった顔にニタッと笑いかける
その言葉に反応したフェイルはそのまま背後の同僚たちへ顔を向けるとすぐさま顔を逸らされる
その肩が笑いをこらえて震えているのを見てフェイルは羞恥で顔が熱くなり涙と鼻水に加えて汗まで吹き出し、もう見ていられない様になる
「ちょっ!ちょっとだけ!ちょっとだけ待っててください!」
素早い身のこなしで受付から奥へと引っ込む、1分ほどで戻ってきた彼女の顔はきれいになってたがよほど急いで洗ったのか、前髪はしっとりと濡れていた
「おほんっ、改めておかえりなさいエレジーさん、本当に嬉しいです」
「ああ」
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「マートリの街?そこにエルフ族がいたのですか?」
「はい、先程伝令が到着しそのように報告を受けました」
「マートリの街へとはどの辺りですか?」
「こちらになります、現在我々のいるディレクの街はここです」
ペイローン伯爵領内で同胞を捜索中のレギンバースとミーンジャースは伯爵から付けられた兵の1人から有用な情報を得ていた
エルフ族を領内で発見したと、自治区からは自分たち2人以外は伯爵領内に出されていないのは確実なのでそのエルフ族から話を訊くことが最優先事項となった
地図を広げ場所を教わるが現在位置とはかなり遠い、ならばこの目撃情報自体も何日も前のものだろう
2人は少し考え込む
「どう見る?」
「・・そこにはもういないだろう、だが無視するわけにもいかないな」
「だな、なら俺が行こう」
「わかった、気をつけろ」
「何かあれば連絡する」
2人のエルフ族はディレクの街で別れる、レギンバースはこのまま次の街へ、ミーンジャースはマートリの街へそれぞれ移動する
彼らの行く先はまだまだ長い
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