第9話 到着



護衛依頼に途中参加してから3日目、あれからは魔獣の襲撃もなく要塞都市クステンに到着した

巨大都市といわれるだけあってマートリの街とは比較にならないほど建物も人も多く、流れも盛んだ

馬車の発着地へ送り届けると子どもが私との別れを惜しんで大泣きしたが両親が抱えて行った

メイトリッドも体調が戻らずクラメとウルスラグナが宿まで付き添うこととなりローマンと私で冒険者組合へ向かっている



「エレジーがクステンに来たのはやっぱりアレか?ダンジョンか?」

「ああ、ライザンに勧められてな」

「ライザン?・・って誰だ?」

「マートリの街の冒険者組合長だ」

道すがら話しながら歩いているがここでもやはりエルフ族は珍しいのかすれ違う度にほとんどの人族が視線をこちらに向ける、ローマンもそれに気付いているようで目線が忙しなく動いている

「・・やっぱ注目度がすげえな」

「私はもう慣れた、この街のやつらもすぐに慣れるさ」

「そんなもんかね」

「人族は良くも悪くも慣れるものだ、恵まれた環境に、過酷な環境に、エルフ族がいる日常に、な」

しばらく歩くと周りの建物がはけ大きな広場に出る

広場の中央には大きな門のみが付けられた建物がその口を僅かに開いた状態で建っており、その正面には大小2つの冒険者組合が構えている

「あれがダンジョンの入り口な」

ローマンは大きな門を指差す

「確か地下に広がっていると聞いたが、あの門から地下に潜るのか」

「そうそう、ここからじゃ遠くて見えないけど門を超えるとすぐ階段になっててな、降りたところがダンジョンってわけ、まあ楽しみは取っておいて先に報告済ませちまおう」

隣合った組合のうち小さい方の組合へと向かう

「何故組合が2つあるんだ?」

「ああ、あれはダンジョン関係だけを扱ってるのが大きい方で、通常の依頼とかは小さい方で受けてんだ、だから俺たちはこっち、・・まあ中で繋がってんだけどな」

ニシシッと笑いながら組合に入るローマンに続いて入ると人は疎らにいるだけで冒険者よりは受付の奥で仕事をしている組合員の方が多いくらいだ

だが扉のない通路から大きい方の組合が見えるがそちらには武器を携え鎧を着込んだいかにも戦闘に比重を置いた冒険者たちがたむろしている

だが、そちらは後回しにして先に依頼の報告と精算を済ませてしまおう

ローマンと受付へ向かい依頼の完了を報告すると同時にローマンから依頼料を受け取る

「改めてありがとうなエレジー、同じ冒険者として活躍を祈ってるぜ」

「ああ、メイトリッドを大切にしろよ」

「もちろん」

お互いに握手をしローマンは組合から出て行く、メンバーと合流するのだろう、メンバーが抜けることであいつらがこの先どうするのかはわからないが、短い生に後悔のないように生きることを願う



通路から隣の組合へ移動する、人族が群れており、それ相応に喧騒が酷いがダンジョンというものについて詳しく訊くため受付へと向かう

前に立つと丁度書類の束を奥へと回し終えた組合員と目が合う

「知人にダンジョンを勧められて来たんだが、あれは好きに入ってもいいのか?」

「・・えっと、冒険者証を確認させていただいてもいいですか?」

手渡すと目を見開いてわかりやすく驚き、裏面を見ると重ねて驚きの表情を浮かべる

「まさか本物のエルフ族だなんて、しかも他の街の組合長の推薦でC級!?、やばい、レアすぎる」

何かブツブツ言っているがどいつもこいつも聞こえているんだよな、聞かせる意図があるのか、聞こえないようにしていて意味を成していないのかはわからないが

「ンッ、ンンッ、失礼しました、お返しします、担当させていただきます組合員のフェイルです、よろしくお願いします」

咳払いをすると声がかなり変わる、さっきの独り言を感じさせない変わりようだな、わざわざ掘り返したりしないが

「ああ」

「ダンジョンについてでしたね、C級でしたら組合から制限は特にありません、ダンジョンの入り口で冒険者証を提示していただければいつでも入れます、D級以下なら制限がありましたけどね」

「中については何かあるか?私は初めて来たんだ、常識から頼む、ああ、全部説明しなくてもいい、簡単にでいい」

「・・そうですね、ダンジョンに入るには組合の正面にあるあの門だけになります、他の入り口はありません、中には魔物が跋扈しており発見されれば襲ってきます、外と違い魔物を討伐しても死体は残らずに消滅します」

「消滅する?」

「そうです、なんと言うかこう、空気に溶けるといいますか、風に攫われる砂のようといいますか、とにかく死体は残らないんです」

ダンジョン内の魔物はそういう特性をもつ生物なのか、外の魔物とは別の生物なのか、いや、死ぬと消滅するなら生物ですらないのか、実体を失うだけで後で再構成されるのか、考察は絶えないがそれは後で実践できる、ここは説明の続きを聞こう

「その代わり、と言ってはおかしいかもしれませんが各所にその階層に対応した魔物の素材や珍しい武具が入った宝箱が配置されていることがあります、冒険者のみなさんのお目当てがこれになります」

「魔獣の死体を買い取るのではなく宝箱の中身を持ち帰れば組合がそれを買い取るのか、中身は魔物みたいに消滅しないのか?」

「そうですね、そんな報告は過去に一度もありませんね、あと宝箱の中身の売る売らないはもちろん冒険者の自由です、有用な武具はそのまま冒険者が使用することも多いですね」

消滅する魔物に有用な宝箱ね、まるで遊戯、娯楽だな

だがこれがこの星での常識なのだろう、こう感じてしまうのは私が星の異邦人だからか

こいつらはそれがそういうものだと納得していることに私は疑いしかもてない、何故疑わない、何故深く理解しようとしない、とな

まあそんなお互いに無意味なことは口にはしないが



「なるほど、今はそれでいい、また何かあれば訊くかもしれん」

「あっ、あと最後に一つ!」

「なんだ?」

「・・大きい声では言えませんがダンジョン内で宝目当てで冒険者を襲う盗賊やならず者の類が稀にいます、冒険者を装って近付いてくるとの情報もあがってきています、もしダンジョンに潜るのでしたら魔物だけじゃなくてそういうものにも注意してください、できればパーティを組まれたほうが安全だと思います」

ああ、今まで会わなかったがやはりいるよなそういう輩は

やはり人族は人間と酷似している

同種同士で生存本能に関係のないくだらない理由で殺し合う愚かしさ、進化の末、知恵の発達の代償と言えなくもないが私はそういう輩は須らく不快に感じる

取り込むこともしたくないので関わり次第処分することにしよう

「わかった、注意しよう、情報感謝する」

「はい、またなにかあれば私、組合員のフェイルまでお気軽にどうぞ」

見送られ組合を出て行く、外はまだ日が高く街は賑やかな様子を見せている

「(まずは宿をとって、街を巡って、ダンジョンはその後だな)」

私は周囲からのもの珍しげな視線を感じながら街の喧騒へと溶け込んでいった



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「エルフ族が我が領にいただと?」

「はい、間違いありません」

「・・あの2人以外に自治区から出された捜索隊の可能性は?」

「否定はできませんが少なくとも御二方はそのようなことはおっしゃられなかったかと」

「・・・・」



エルフ族の捜索に協力してから6日、各街に向かわせた者から徐々に情報が集まりつつあった、結果は空振りばかりであったがその内容にペイローン伯爵は安堵していた

もし何か関連を疑うようなものが見つかれば自身としても、国としても大問題になるからだ、協力してはいるが『何も見つからないでくれ』というのが彼の本音だった

だがここで少し、ほんの少しだが取っ掛かりのような報告が上がってきてしまった

「・・そのエルフ族は今どこだ?」

「マートリの街に数日はいたようですが最近は目撃されていないようです、噂程度ですが冒険者組合と協力して魔獣を討伐していたという話もあります、大っぴらに捜索をしていない分、今のところこれが全てのようですな、街での聞き込みを継続すると締め括られています」

ルヴィクが報告書を手渡してくるので受け取り、改めて読み直し軽く息を吐く



「あの2人はディレクの街に向かったのだったな?」

「はい、そのまま渡しますか?」

「簡潔にでいい、実際に発見したわけではないからな、ディレクからマートリは遠い、仮にすぐに向かっても恐らく無駄足だろう、そのくらいは彼らも理解している」

「かしこまりました」

ルヴィクが執務室を出て行くと大きく息を吐いた

「何も起こるなよ、何か起こるなら頼むから他領へ行っからにしてくれ」

人族として、領主としてそう願わずにはいられなかった


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