第7話 道中
翌朝、朝日が顔を出すとほぼ同時刻に乗り合い馬車は出発した
幌付きで雨だけはしのげそうだが他は木がむき出しの簡素なものでエルフ族の観点ではお世辞にも快適のかの字もないが私には特に影響がないので言うことはない
私の他には親子連れと思わしき3人と初老の男が1人の計5人が乗っている
馬車の周りには出発前に挨拶された冒険者パーティが護衛として付いている
魔獣や魔物、場合によっては犯罪者から守る依頼を受けたのだという
組合にはそういう依頼が常時張り出され募集しているらしいが私は興味がないのでそういう依頼は受けることはないだろう
移動中は特にすることもないのでエルフ族の魔法の改造でもすることにする
消費魔力が増えようが運良く取り込んだ純魔結晶で補完できるので問題はない、この純魔結晶とやら、どうやら思った以上に有用のようだ、数度しか魔法を使っていないというのもあるかもしれないが魔力が減少したようには見えない
それどころか魔力の使用直後から空気中から魔素を吸収し減った分を自ら補っているようにも見える
それが純魔結晶自体の特性なのか、私が取り込んだ故に起こっていることなのか、その判別は今はつかない、後々調査が必要だろう
「おねえちゃん変な耳だね」
乗り合わせた子供が寄ってきて私の顔を見ている、一緒にいた両親を見ると2人寄り添って眠っているようだ
「これはエルフ族の特徴なんだお嬢ちゃん、人族のお前とは違いがあるのが普通なんだ」
「あたしユーノ!」
「そうか、向こうで親と一緒に寝てな」
手を振り会話を終わらせ魔法の改造に意識を戻そうとするが子供は何故か隣に座って私を見続けている
「ねむたくない、おねえちゃん何がお話して」
知的生命体とはいえ幼体ではこの無警戒さも仕方ないことなのか、親の管理不足とも取れるが
まあ最短で趣味を突き詰めるのもいいが、寄り道もまた、そこから得るものもあるかもしれんか
「いいだろう、一つ絵本を読んでやる」
以前別の星で手に入れた絵本を背に回した腰のポーチから取り出しページを開く
「わあ、すっごい絵きれい!・・でも字よめない」
隣から覗き込んでくる子供のテンションが乱高下している
というか字は読めなくて当然だろうな、国どころか星が違うのだから、読めるやつは恐らくこの星にはいないだろう、私のような特別な場合を除いて
「そのまま見てろ、読み上げてやる」
この星と齟齬が出ないようにところどころ言い回しや表現を変えながらゆっくりと一冊を読み切る
読み終わると子供のテンションはウナギ登りでもっともっととせがんでくる
両親の方を見るがこんなに子供が騒いでいるのに起きそうな気配もない
乗り合わせた初老の男は何故か微笑みを浮かべて子供を見ている、身内ではなさそうだったが、以前の星で聞いた老いた人間の極一部に生まれる寛容さというものだろうか
魔法という大きな違いこそあるが人間と人族はかなり近い種族なのかもしれないな
私は子供の両親が起きるまで絵本を読み続け数時間後ようやく起きた2人にとても謝られた
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ペイローン伯爵領領都インプアに居を構えるウィリアム・ペイローン伯爵はその日いつもと変わらぬ仕事を息子クロムウェルと執務室にて行っていた
机と向き合って2時間程、そろそろ一息入れようかと考えているとドアがノックされる
「ルヴィクでございます、少々よろしいでしょうか?」
「ああ、入れ」
「失礼いたします」
入ってきたのはこの家の執事長を任せているルヴィクであった、はて、この時間は何も予定がなかったはずだが、執事長でも対処できない何かがあったか、私は目の前の書類を机の脇に寄せる
「何かあったか?」
「ええ、ウィリアム様に面会を求めてエルフ族の方々がいらっしゃいました」
「・・ん?エルフ族と言ったか?」
「はい、間違いありません、自治区から来られたそうです、ペイローン伯爵に訊きたいことがあると言われ、どうなさいますか?」
「もちろん会おう、彼らの不興を買うことは避けたい、2番応接室に案内しておいてくれ、すぐに向かう」
「かしこまりました」
ルヴィクは執務室を出て行く
しかしエルフ族か、伯爵家を継いだ時に会ったきりだが今更何の用だ?
父の代でも特に交流していた記憶はないが
・・そういえば7日か8日前くらいに火球騒ぎがあったな、エルフ族自治区に落ちたようだと報告を受けたな、それか?
広域に山火事でも起きて消化への助力の申し出とか?
いや、そんな火事なら近くの街から煙の一つくらい報告がきてもいいはずだ、山火事の線は薄いか
答えはでないまま準備を済ませ2番応接室に入ると既に2名のエルフ族がソファに並んで座っていた
私の姿を確認すると2人は立ち上がり、私は彼らの正面に立つ
「急な訪問にも関わらずお時間を割いていただきありがとうございます、エルフ族自治区より伺いましたレギンバースと申します」
「同じくミーンジャースと申します」
「ゴダット王国より伯爵の地位を頂いているウィリアム・ペイローン伯爵だ、一度挨拶をさせてもらったことがある」
「長より聞き及んでおります」
「うむ、立ち話もなんだ、かけてくれ」
2人が座るとメイドに茶を運ばせる、エルフ族が飲めるかはわからなかったが口をつけたところを見るに問題ないようだ
「それで、どういった用向きで来られたのか?」
「はい、8日前に空から火の球が現れ自治区の山に落ちました」
「うむ、その火球なら我々も確認はしている」
やはりその件だったか、だがやはり山火事ではなさそうだ、目の前の2人からは焦りが見えない、なら何なのか
「それの落下地点の調査へ3名が向かいました、しかし全員7日経っても戻りませんでした、現在も行方不明です、何かご存知ありませんか?」
「いや、何も知らないが、まさかそれはエルフ族3名が死亡、もしくは誘拐されたということかね?人族がそれに関わっていると?」
どういうことだ、まさか誘拐の可能性を示唆されるとは全く思わなかった、もし人族が関わっていたとなると大問題どころの話ではないぞ
「それはまだわかりません、なのでその調査のためにわたしたち2人がゴダット王国内を自由に移動する許可を頂きに来たのです」
「もちろん協力させてもらう、だが王国全域となると時間がかかる、我がペイローン伯爵領内なら自由にしてもらって構わないが他領だとそれぞれの領主の許可が必要なのでね」
おそらく許可自体はおりるだろうが許可取りに往復するだけでも最大で20日ほどはかかってしまうだろう
「構いません、他領からの許可が頂けるのであればそれまではこの伯爵領内を調査させていただければと」
「それは構わない、後で通行証を渡そう、だがあくまで通行証のみだ、捜索とはいえ領民に危害を加えることは看過しない、それは他領も同じだ」
「もちろん、理解しております」
「ならばよろしい、それで、他に我々が協力できることはあるかね?」
「・・もしエルフ族やエルフ族を連れた人族がいればわたしたちに声をかけて頂ければ」
先程までと比べて声に力が籠もる、膨れ上がる感情を抑え込むかのように、意識的にか無意識的にかはわからないが開いていた手が強く握られる
「承知した、ペイローン伯爵家を代表しエルフ族の捜索に全面的に協力しよう」
「ありがとうございます」
「親愛なる隣人として当然のことだ」
お互いに立ち上がり握手をし通行証の作成のため2番応接室から出て執務室へ移動する、途中でルヴィクが無言で後ろに付く
「ルヴィク、聞いていたな、領土を持つ王国内の全貴族へ送れ、人族の潔白を証明するためエルフ族に協力しろとな」
「かしこまりました」
ルヴィクが下がる、他領については後は待てば良い、積極的な協力は遠慮されたが自領については各街に通達ぐらいは飛ばしておくか
執務室へ戻り通行証を作成しながら秘書官の息子へと指示を飛ばした
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