第6話 目的



「何日も待たせてすまなかったな、いやしかし本当に驚いた、エルフ族の魔法は初めて見たがあれはすごいな、昔の俺の仲間でもあんな魔法を使えるやつはいなかった」

人族と接触してから4日後、私はマートリの街の冒険者組合にブルライノの討伐報酬を受け取りに来ていた

あの後冒険者たちはブルライノにトドメを刺して掘り出し、鋼の絆の4人はセイバートゥースとオーガベアまで掘り出し、街まで運搬するのに2日かけ、組合で解体と査定を行うのに2日かかり今になってしまったとのことだった



この4日で私はマートリの街を周り尽くし、住民も私というエルフ族を見ても珍しがらなくなった

鋼の絆からも代金を徴収しその代金で宿も取っている

ここでもエルフ族に対する誤解があり併設されている食堂では野菜しか出されなかったり、火を使うのに薪を使っています!すみません!、と謝られたりしたが今はもう誤解は溶け人族と変わらないものを食べている

「魔法に関しては鋼の絆のグロリアと少し話したがエルフ族と人族では根本が違う気がする、簡単な魔法でもお互いがお互いの魔法を発動させることができなかったしな」

あの時短期間ではあるがお互いに『灯りトーチ』の魔法を教え合った

単純な魔法なので使えると思った私もグロリアも終ぞ発動させられなかった



「そうなのか、俺は魔法はほとんど使えんからなあ」

「まあ向き不向きは誰にでもある」

「そうだな、では約束の報酬だな、諸々込みで金貨4枚でどうだ?」

「ああ、それでいい」

「よし、だが金貨のままだと使いづらいだろ?大銀貨や銀貨で払うこともできる、もしくは、これは提案なんだが冒険者組合に登録してくれるなら貯金という制度がある、組合に金を預けておけばいつでもどの街の組合でも引き出せるって制度だ、ジャラジャラと何百枚も持ち歩くのは邪魔だし強盗に狙われるリスクも上がる、そんなつまらんことで冒険者を失いたくないからな、そういうわけでできた制度だ」

「それは確かに道理だな」

大金を持っても家に置けば寝ている時に襲撃され、持ち歩くにも重くて身動きできない

冒険者として稼ぎ、名が売れるほどそれに釣り合わないほど命の危険が高まる

組合として冒険者を守ることが急務だったわけだ

「だろ?お前さんみたいな強いやつが冒険者になってくれれば組合長として嬉しいんだ、どうだ?」

「なら簡単にでいい、メリットとデメリットをいくつか言ってみてくれ」

「ん?そうだな、メリットとしては組合の設備、制度、依頼の利用だな、あと登録票は身分証にもなるし国内では入街税は組合が肩代わりするから無料だ、国外は悪いが知らん、デメリットは、まあ良くも悪くも組織にはルールというものがある、それを守ってもらうことか、冒険者に無理強いさせるものではないがな」

「では仮に、私がルールを侵して冒険者をクビになったとしよう、その場合預けた金はどうなる?」

「その場合は即座に全額返却になる、貯金という制度が使えなくなるからな、没収にはならないしそんな権限もない、組合はあくまでも預かっているだけだからな」

「ふむ」



少々考える

どれだけ嵩張ろうが私の中にしまうことは可能だしルールとやらに縛られるのは性に合わん、だが身分証があれば無用なトラブルも回避できるかもしれないし組合を使った資金集めや情報収集も可能か

・・まあ不要になれば捨てればいいな

「わかった、なろう」

「そうこなくてはな!」

ライザンはニカッと笑い少し分厚いドッグタグのようなものを手渡してくる、受け取り確認すると

エレジー エルフ族 C級

と刻印されておりその裏面には

C級認定者 冒険者組合マートリ支部支部長 ライザン

と刻印されている

「それが登録票だ、無駄にならなくてなによりだ、失くさないでくれよ?高いからな」

「用意がいいな、読んでいたか?」

「まさか、なってもらいたいなとは思っていたがそれだけだ、無駄になった可能性ももちろんあった、その時は処分していたよ、それと改めてこれが報酬の金貨4枚だ、貯金や両替は受付でやってもらえる」

「わかった」



小さな袋を受け取り冒険者証と一緒に腰のポーチにしまい立ち上がる

「ああ、一つだけ質問」

「おっ、なんだ?」

「私は珍しいものを集めるのが趣味でな、人族の生活範囲に出てきたのもそれが理由なんだが、何か心当たりはあったりするか?」

「そうだな・・」

ライザンは収納棚から地図を取り出し机上に広げ指差しながら説明する

「ここがマートリの街だな、で、少しばかり遠いがここにクステンという街がある、要塞都市クステンといってな、この国最大のダンジョンを擁する巨大都市だ、冒険者の聖地の一つだな、俺も若い頃はここで過ごしたことがあるが今はより発展していて王都と比肩するほどになっているらしい」

指が地図上のいくつかの街を経由しながら南東方向へ滑りクステンを叩く

「この街からでも乗り合い馬車なら出ている、野営と途中の街での補給を挟みながらになるから6日から7日ってところだな」

「まあ距離はそんなに問題ではない、そのクステンにあるダンジョンというのが私の趣味と関係あるのか?」

「ああ、すまんすまん、そこだったな、ダンジョンっていうのは未だ謎が多くてな、はっきりと言えることは少ない、が、簡単に言えばクステンの地下に広がり魔物が蔓延る危険区域だ、だがダンジョンには宝と呼ばれるものが各所に生成されるんだ、金品だったり武具だったりな」

「宝か、しかし足元に魔物がいる街がよく発展したな、地面を掘り抜いて魔物が街に出てくることもあるだろう?」

そんなことになれば発展どころか衰退の一途だろう、危険で住めたものではないだろうからな、そうなっていないということはそこに何か仕掛けがあるのだろう

「それも謎の一つでな、昔試したやつがいたんだ、街とダンジョンの地図を照らし合わせてここを掘ればダンジョンに繋がるって言って街の一角で穴を掘ったやつがよ、だがどれだけ掘ってもダンジョンに繋がらなかった、逆も同じだったそうだ、だから今もダンジョンの出入り口は一つだけだ」

「・・なるほど、おもしろいな、行く価値はありそうだ」

「登録初日とはいえお前さんはもう立派な冒険者だな」

ライザンは嬉しそうにニカッと笑う



「ではクステンに行くとするよ、ではなライザン」

「おう、じゃあなエレジー、お前さんなら心配ないかもしれんが宝よりも体を大事にな」

後ろ手を振り組合長室を後にする

組合の受付でとりあえず金貨を1枚だけ両替し乗り合い馬車を探すが最短は明日の朝一番だったので保存食を少し買い宿で明日を待った


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