第5話 合流



グロリアと魔法談義をしていると森を抜ける、木々がなくなり視界がひらく、草の生えていないむき出しの地面にはうっすらと轍のようなものも見て取れる

「あそこだ」

ブライアンが指さす、遠目に数台の幌馬車と天幕が見える

その周りには数人の集団が何組か地面に座り込んでいる

「ここまで来ればもう大丈夫だ、俺は先に行って軽く説明してくるからみんなはゆっくり来てくれ」

ブライアンは1人で走っていったので私はその通りにゆっくり歩いて後を追う

「半数くらいは戻って来ているようですね」

「・・少ない」

「確かにそうよね、あたしたちあの洞穴で一晩明かしたのに」

ブライアンに合流すると隣に立っていた大男が話しだす



「『鋼の絆』の4人だな、よく戻った、そして君がこいつらを助けてくれたようだな、組合長として感謝する」

「たまたまだ、感謝はもういらん、代金も後で支払ってもらうからな」

「そうか?だが感謝を忘れれば人としては下の下だ、君には不要かもしれんがそこだけは理解してくれ、っと名乗りが遅れたな、マートリの街の冒険者組合で組合長をしているライザンだ」

「エレジーだ、聞いたかもしれんがエルフ族だ」

差し出された大きな手を握り返す

「よかった、握手の文化はエルフ族も同じなんだな、後で街へ行くと聞いたが勝手が違うこともあるだろう、もし何かあったら組合に来ればいい、力になるぞ」

「ああ、その時が来れば頼む」

握手を解きニカッと笑うライザンにエレジーはニタッとした笑顔で返す

その笑顔を見たライザンの笑顔は引き攣る

「・・エルフ族の文化はわからんがその笑顔は人族の街ではしないほうがいいだろうな」

「クッカッカッカッ、軽いジョークだ、人族は円滑な関係を結ぶためにこういう技を使ったりするんだろう?今はセンスがないかもしれないがこれも経験や慣れが必要なんでな、後々磨くさ」

「エルフ族に関する噂話はいくつか聞いたことがあるが当てにならんモンだな」

「自分で言うのもなんだが私は変わり者だからな、どんな噂話を聞いたかは知らないがその噂通りのエルフ族もいるだろう」

などと話していると小さな地鳴りのような音と共に森から2人女が飛び出してきた、息も絶え絶えで、後ろも振り返らずに一心不乱にこちらに向かって走ってくる

ライザンはすぐに表情を引き締め2人に向かって行こうとする、と女2人を追うように森から魔獣の群れが現れ、逃れようとする女2人を轢き潰した



「ブルライノの群れかっ!全員動けっ!もう一仕事だ!『身体能力向上ステータス・アップ!』」

ライザンは戦斧を構え自身で支援魔法をかける

座り込んでいた冒険者たちも各々戦闘準備を整えていく

「なあエレジーさんよ、もし戦えるってんなら手ぇ貸してもらえねえか?俺たちだけでも勝てるっちゃあ勝てるが何人かは死ぬ」

ちらりと後ろの冒険者たちに目線を向ける

「組合長として人族として同胞が死ぬのは避けたい」

「ブライアンから聞いていないのか?」

「何をだ?」

「・・まぁいい、手を貸してやる、戦果に応じて報酬を貰うぞ」

短杖を抜く

「もちろんだ、まさかエルフ族と話すどころか共闘しちまうとはな、人生何が起こるかわからんモンだ」

ライザンは後ろの冒険者たちを見る、皆武器を構えその時を待っている、前に向き直り声を張り上げる

「行くぞお前ら!」

「「「「おう!!!!」」」」

幾人もの声が響く


「『沈みスィンク浮かべぬドレッゴ泥底からの招きドラッギン』」

こちらへ突撃してくる数十体のブルライノの群れが魔法で変化させた泥濘んだ泥に足下を取られ一斉に動きが止まる

勢いのまま突っ込んだので顔面まで埋まり藻掻いているやつもいる

泥の手を使わずとも自重と藻掻きだけでどんどん沈んでいく

全ての個体が体の半分以上が埋まったあたりで地面を元に戻す、鳴き声を上げ、体を震わせ、藻掻いているが既に土は固く、抜け出せるものではない、私は短杖をしまう

「ライザン、何匹かはこのまま窒息して死ぬが大半はまだ生きてる、動けはしないがな、お前らにやろう、私が手伝うのはここまでだ、報酬には期待している」

ライザンの腰をポンと叩き武器を構えたままの冒険者たちを通り過ぎ原っぱへと腰を下ろす

全員の視線を浴びながらこともなげに

「早く動けば?」

その言葉の後もすぐに動き出せた者はこの光景を一度見ている鋼の絆の4人を含めても誰一人いなかった



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