第3話 誕生



『私』は呑み込んだ3人から全てを奪い取った

持ち物を、命を、知識を、技術を、姿形を

この星の生物としてふさわしくなかった自身の容姿を奪ったものから再構成し模倣する

直径50cm程度の石にしか見えなかったものが身長170cmほどのエルフ族の女性体を形取った

色も、質感も、完全にエルフ族に成り変わった

目、首、腕、腰、脚と順に動かしていき異常がないかを一つ一つ確認していく

「・・、ーー、ぁー、あ、あ、発声確認」



問題なし

いやはやなんとも幸運だった、まさかこんな短時間で知的生命体が罠にかかってくれるとは、それも3体も

1人を呑んで模倣してしまうと足がつき易いからな、3体も混ぜて再構成してしまえば多少面影があっても他人の空似で押し通せる

それに知識も広い範囲で会得できる、・・と思っていたんだがこのエルフ族という奴ら随分と自己完結型、というか排他的というか、自分たち以外のことをほとんど知らないな

自身の住む自治区やその周辺の森、そこに住む魔物や魔獣、そこまでしか確実と言える知識がない、森の外には人族が住んでいるというのは知っているだけで会ったことはないときた、私とは馬が合わない種族のようだな

だがとりあえずは役に立つ知識から使っていこう

この空洞にいくつも生えている結晶に近付く



「純魔結晶ね、かなり希少で価値もあると、素晴らしい、幸先がいいな、蒐集家コレクター冥利に尽きる」

それがいくつも壁や天井から顔を覗かせている

この光景に得た知識に対して懐疑的になるが蒐集心をくすぐられたのもまた事実、両腕だけを元の姿に戻し壁や天井を這わせ次々と純魔結晶を呑み込んでいく

総重量およそ400kgほどの純魔結晶を取り込み私は貫通してきた狭い洞窟を通り地表へ向かう

5分も歩けば陽光と青々と茂る木々が私を歓迎してくれた

深呼吸をする、私自身は呼吸というもの自体必要ないのだが模倣したエルフ族に引っ張られたのか思わずしてしまったが、悪くない

この陽光や木々は以前に訪れた星と近しいもののように感じる、エルフ族や彼らの使う魔法というものは存在しない星ではあったが知的生命体の存在する星というのはどこか似通ったものになるのかもしれない



「さて、まずは人族とやらを見に行くか」

エルフ族に関しては知識として得ているし取り込んだことで体験したともいえる状況になっている、なら後回しでいい

まずは人族とやらの存在を確認するのが先だ、だが人族の集落の場所など知識にはなかったのでとりあえず私はエルフ族の里から離れる方向に歩き始めた



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『彼女』が洞窟を出てから2日後、エルフ族自治区では騒ぎが起こっていた

「長、レメゲンティアとジークザール、そしてエルグリッドはまだ戻っておりません、やはり何かあったのは確実でしょう」

「既に捜索に4人向かわせています、その者たちが戻るまでもう少し待ちなさい」



長の仕事部屋では民を代表して来た男と向かい合って話をしていた

少し距離があるとはいえ丸2日間も帰ってこないのはおかしいと、

そんなことは言われずともわかっている、だから既に捜索に出しているし早ければもう帰ってくるだろうと報告を待っているところだ

その時、ドアがノックされ許可とともに男が1人入ってくる、捜索に出していた内の1人だ

「みつかりましたか?」

私の質問に軽く首を振りながら

「かなりの範囲を探しましたが3人は見つけられませんでした、他の者は今も残って捜索を続けております」

「そうですか」

私と民の代表の男は目を伏せる

「しかし3人の足跡は発見しそれはとある洞窟へと続いておりました、我々も中に入り調べたのですが奥に少し広い空洞があるだけでした」

洞窟?あの辺りに洞窟なんてあっただろうか

「そして、足跡から察するに洞窟に入ったのは3人ですが出てきたのは1人だけです」

私と男は疑惑を浮かべる

「どういうことなの?」

「わかりません、その足跡は3人のものとは別物でした、洞窟から出た後里とは逆方向に進み途中で途切れ追えなくなりました」



報告を聞いて部屋に沈黙が流れる

長考の後、口を開く

「わかりました、では交代しながら追加で5日間範囲を広げながら捜索は続行してください、それで見つからなければ捜索は打ち切ります」

「かしこまりました、失礼します」

「長!」

男は声を荒げるが二の句を紡ぐ前に私が割り込む

「捜索は打ち切ります、が、捜査は継続します、その謎の足跡の者は間違いなく3人と接触しているようですからね」

「生存の可能性を諦めるというのですか?」

「そうは言いません、ですが、その心構えは必要ということです」

組んでいた指に力が入る、男はそれを見てか軽く頭を下げて部屋を出ていった、少しして力を込め過ぎて白くなった指を解く、息を吐き背もたれに体重をかける

「エルグリッド、どうか生きていて」

誰にも聞こえないような小声で我が子の無事を願う、長の前に母であるフェンリートは感情や衝動を抑え込み1週間後の捜査に備えて準備を始めた


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