第2話 着弾点(視点:エルグリッド)



「この辺りよね、ティア、ジーク、そっちはどう?」

今まさに調査に出ようとしていたレメゲンティアとジークザールをひっ捕まえて同行してからおよそ半日後、おおよその着弾地点であろう場所周辺を3人で歩き回っていた



「おかしいですね、時間が経ってるとはいえ少しくらい焦げた匂いとかがしてもおかしくないはずなんですけど」

「こっちも全くだ、焼跡一つねえよ」

少し遠くから二人の声が届く、ティアの言う通り森が燃えていないのは安心したがあんな火の球が落ちて焦げ一つないのは逆に不自然な気がする

実際ここに来るまでに警戒していた魔物や魔獣との遭遇も一切なかった

普段なら何度かは遭遇しているのが普通なのに、それのせいもあり『異常なし』で片付けられずに長時間痕跡を探している、その時

「おい、二人共来てくれ」

ジークの声を聞きわたしとティアが合流するなりジークは目の前の小さな洞窟を指さした

「この洞窟だけどよ、多分最近できたもんだ、あと壁と地面の石が若干だけど溶けてんだよ、ここじゃねえか?」

「・・確かに溶けているように見えますね、掘り出した土も見当たりません、その割には匂いは全くないですけど」

「そうね、・・一応入ってみましょう、狭いけどギリギリ通れるでしょ」

わたしが率先して入っていくと後ろから二人が少し屈みながらついてくる

溶けているというのが正しいのか洞窟の地面には砂利や砂がほとんどなくかなり硬くなっているのが足裏から伝わる

変わり映えのしない視界にどれだけ進んだのかわからなくなる



途中で光も届かなくなり明かりの魔法を使用し先へ進む

10分近く進んだだろうか、狭い洞窟が終わり開けた空間に繋がった、その空洞の壁や地面はそれまでとは違いやけに黒く使用していた明かりの魔法では奥まで照らせていない

地面に降り立つと予想していた硬い地面ではなく柔らかく粘り気のある音が鳴った

「わっ、なに?」

「なんだ?」

「どうしました?」

後ろの二人から焦る声が届く

「大丈夫、地面が泥濘んでるみたいだから気をつけて」

不快な音を立てながら二人も空洞に降り、辺りを照らしながら奥へと進む

しかしやけにこの空洞は魔素が濃い、長時間居続けるのは無理だろう

その時壁に光を乱反射し多様な色彩に輝く純魔結晶を見つける

「うそ、あれって純魔結晶?」

伝聞でしか知らないがこの場の異常な魔素の濃さ、宝石や鉱石ではありえない多様な色彩の乱反射、おそらく間違いないだろう

「まじ?」

「本当ですか?」

「多分、だけどね、二人も見て・・」

後ろを振り返ると二人の疑問を浮かべた表情の向こう、うっすらとしか見えないが進んできたはずの狭い洞窟の口が閉じていく

「えっ?」

周りから壁に呑まれ同化するかのように閉じていき1秒も経たずに完全に閉じてしまった

「構えろ!」

「「!!」」



わたしが短杖を構えるとティアも短杖を、ジークは短弓を構えお互いに背中合わせになり死角をなくす

3人は無言で周囲を警戒し神経を尖らせる

異変はすぐに訪れた

「おいおい、壁が迫ってきてんぞ!」

「こちらもです!」

「ティア!合わせて!」

わたしは魔力を短杖に込めながら先程塞がった一点を指さす

ティアも短杖を構え同時に魔法を撃ち込む

「『『貫けペネトレイト魔法弾マジックバレット』』」

二人が同時に魔法弾を撃ち込むも迫る壁は全く傷付かず勢いが衰えることもない

「くそっ!なんなの!」

「まじかよ!天井もだぞ!」

ジークの声につられ上を見ると天井も壁と同じように自分たちに迫ってきている

「ジーク!魔法が下手でも正面に全力で撃つぐらいできるでしょ!全力で3人で撃つ!」

ジークは魔力の制御はお世辞にも褒められたものではないが放出量だけならかなりのものだ、今だけはそれでもいい、ただ目の前に撃ち込んでくれればいいのだから

短弓を捨て短杖に持ち替え魔力を制御し練っているがどう見ても安定していない、だがそれをぶつけるだけでも十分な威力を持つほどには魔力が込められている、わたしとティアも全力で魔法を撃つ



「『『圧縮コンプレッション貫けペネトレイト!、魔法穿線マジックレーザー』』」

「おぉらあぁぁあ!!」

魔力を圧縮し貫通力に特化した魔法の着弾点に破裂寸前の魔力塊も放り込む

接触と同時に凄まじい閃光と爆風を伴って破裂し、わたしたち3人は反対側の壁へ吹き飛ばされる

本来ならこんな閉所で使うべきものではない、だが目の前で起こる事象に対する恐怖が、焦りが正常な判断力を鈍らせていた

壁に叩きつけられるも地面と同じような泥濘に似た質感によりダメージはほぼ無い

すぐに立ち上がり穴が空いたであろう着弾点に駆け寄る、が



「うそ・・」

確かに3人がかりで攻撃したはずの壁には僅かな穴がすら空いておらず表面が蠢きながら変わらぬ速度で迫ってきている、身体が勝手に後退りする

背後では二人が叫びながら短杖と大型ナイフを振るい迫る壁に突き立てているがやはり効果は見られない

必死の抵抗の甲斐もなく、3人は『それ』に呑み込まれた


 

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