花は心を映す鏡3
学校でのイジメ。その中には元々人付き合いが苦手な面も関係しており、趣味や好きなこと、ハマっていることがクラスメイトと合わず気付けば輪からはみ出し一人。
そこは光佑や漆が勘づいていた事だが【疑問に思っていた何か】の答えは“姿容”だった。
男の子なのに女の子っぽい。
男よ子なのに好みが女性。
話す内容も見た目も――。
“男”は男。
女は女。
その偏見が少年を苦しめた理由だった。
「んっ……あれ、ボク何して……」
「あ、よく眠れたかな? 大泣きしながら色々我慢してたことを言葉で吐いたから疲れちゃったんだと思う。でも、よく言えたね。お兄さん達、とても満足なんだけど怖い思いさせちゃったから反省しててね……実は凹んでる」
光佑は個室の壁に頭を打ち付け「あぁ……」と落ち込んでいると椅子数脚をベットに寝ていた少年がゆっくり体を起こす。目を擦りながら周囲を見渡しては「あれ、漆さんは?」の声に「スタッフルームで人が変わったように爆睡してるよ」と苦笑い。
「色々刺激しちゃったから自家製のノンカフェインハーブティーの香りを嗅ぎながら少し落ち着こうか。待っててね」と、おぼんに新しく注いだオレンジジュースのコップとハーブティーのカップをそっと置く。さりげなく一緒にピンク色の可愛いマカロンを添え、「はい、どうぞ。僕が作ったおやつだよ」とおまけ。
「わっマカロンだ!!」
「気分で出来が違うから口に合えばいいけど」
光佑は椅子を直しながら少年がマカロンに釘付けなのを確認。椅子を定位置に戻すやお行儀よく座り、嬉しそうに食べる姿に「可愛い物好きかな?」と声掛けるや目を点にする様子に笑う。
「怖がらなくていいよ。今のはHSPとかエンパスとか関係なしに分かったことだから。僕も好きだよ。パステルカラーみたいな優しい色のモノ。なんだ、これも早く言えばよかったね。警戒心が酷かったから話すのが遅れちゃったけど……僕を選んだ理由はそういうのもあるのかな」
驚きながらも食べる手を止めない様子に「ふふっよほど好きなんだね。じゃあ、このまま難しい話もして……タイミング見てお花も挿して……今日は終わりにしようか」と光佑は椅子に腰掛けるや話題を変える。
「今から言うことは非常に難しい事“もしかしたら、大人になったらキミは僕達のことを覚えてないかもしれない”。でも、僕達のことは覚えてなくても今から言う人達や僕達と出会って経験したことや感じたことは忘れないでね。
さて、HSPは略されてて正式名所は【ハイリー・センシティブ・パーソン】。心理的なモノだと思ってくれたらいい。
例えて言うなら【音、光、味覚などの感覚刺激に対する鋭敏さ】と【職場・自宅などの環境に対する鋭敏さ】。皆持ってるけどHSPは“感受性”が高い人で自分が思った以上に【状況から刺激を受けて】疲れてしまう人なんだ。“体質”で病気はないんだけど感受性が高いほど疲れてしまう。だから、悪いことじゃない」
時より話を止め、モグモグしている少年の様子を伺う。難しくて少し苦しそうだが光佑も同じ。本来なら解決する身だが必要に応じ臨機応変に対応するのもこの店ならでは。疑問に思っているのなら打ち明けた方がいい、という四人の意志がから時間をかけて理解されなくてもいいから話す。決まりではないが成り行きでカウンセラーとして四人が必ずぶつかる壁。
「じゃあ、忘れないうちに【エンパス】も話すよ。HSPは【環境や感覚に敏感】その傾向に【気疲れと情動吸収】が加わるとエンパス。
【情動吸収】は自分と他者との間のフィルターが希薄な特徴で“相手の気持ちやストレス、痛みを取り込んでしまう”ことなんだけど……分かるかな」
その問いかけに少年が小さく頷く。
「漆さん……ですよね、それ」
「うん。あと、ここが重要なんだけどHSPとエンパスの人って“鬱”や“不安障害”を合併している人が多い。キミには少し難しいかもしれないけど、エンパスは他人の気持ちが自分に流れ込んできちゃうからストレスを溜めやすくて耐えられなくて追い込んでしまうんだ。だから、知らないうちに何かを発症している場合もある。
今話せることはこのぐらいかな。もし、キミの知り合いに【話してなくても“苦しい”?】とか【相談しようか?】とか言ってきた人がいたら……さりげなく今教えたこと思い出してね」
頭を悩ませながらも必死に話についていこうとしている少年。「んー」と声を漏らしながら「合併って気づかないもんなんですか?」の質問に光佑は「うん。トラウマや酷いイジメを経験した人でも【鬱】【不安障害】を発症するし、フラッシュバックを起こして振り返ってしまう人もいる。フラッシュバックに関しては僕なんだけど……ね」と笑い誤魔化しながら返すと「何かあったんですか……」の言葉に「今のキミじゃ受け止められないかな……話すならもう少し心理的に良い状態じゃないと話すのが怖い」と初めての彼の弱音。
「ご、ごめんなさい……」
慌てて頭を下げるとゴンッと額が机にぶつかり、鈍い音が響く。その音にびっくりした光佑はオレンジュースが入ったコップを手に取り、ぶつけたであろう箇所に優しく押し付ける。
「あ、いや、キミが悪いんじゃなくて……僕が悪い。僕が力不足で助けられたのに助けられなかった。人殺しと変わらない。だから、キミを見てると怖いんだ。フラッシュバックずっと起こしながらも立ち向かわなくちゃいけ。でも、僕が立ち止まったらカウンセラーとして許せない僕もいて……。だから、キミを助けられたら僕は救われるのかなって……罪滅ぼしの僕もいる」
「光佑さん……」
「ごめん、話すぎたね。苦しくなったら休んでいいから……少し席外すよ」
耐えられなくなった光佑は素早く席を立つと「光佑さん、手……」と震えているのがバレ作り笑顔で誤魔化す。「ごめん」とドアを開けると達也の姿。
「なぁ、話してもいいんじゃないか? お前の過去。俺と涼は……その、漆や光佑の過去とは比べ物にならないモノかもしれないけど。お前の過去なら少年に共感とか考えを得られる。俺はそう思うぜ。じゃなきゃ、漆もあんな行動しないし、お前も早めに打ち解けたら楽になるだろ。いい加減に足枷と手錠絡まってるなら外せってさ。
年上組からの説教と勇気が出るように“黄色とオレンジのミニブーケ”贈呈」
と達也は光佑に無理矢理花を押し付ける。
「それと、お前が過去を少年に話すなら俺らも順に話すから一人だと思うな。あと、これな。はい、漆は親にまで説教した証拠と“日記帳”。馬鹿漆の暴走を無駄にしたくないだろ? それは俺も同じだし」
押し付けられたミニブーケと書類を手に取り、ペラペラと書類を捲り目を通すや「えぇ!! あの人、この子の親に直談判して説教もして預かる予定まで立ててる!! しかも日付今日!!」の発言に少年が飛んでくる。
「ふえぇ!! なんか話が違う!! お花終わったら決めるんじゃないの!!」
光佑と少年が慌てるタイミングが絶妙すぎて達也は「お前ら、同じタイミングで同じリアクションすんな」と冷静に突っ込む。
「つかさ、『親が押しつけがましく言ってきたから頭にきて引き取った』って。前々から親とのやり取りで揉めてたらしくてさ。『子供の心理も考えず、目先だけで判断するなら此方でも対策させていただきます』というわけで……少年は一週間だけ俺らの子――」
達也の話に少年は“家に帰らなくていい”と知ってかポロポロ泣き出しては「家に帰ったら怒られるって怖かったから……涙が」と泣き出す。
「わーごめん。そうだよね、僕の中では“捨てられちゃった”のかなと解釈しちゃったけど……帰りたくなかったのなら言っていいんだよ。そしたら、僕達が親に話を持ちかけるからキミが心配することじゃ――でも、しちゃうよね……分かる……不安にさせてごめんね」
足に抱きつく少年に光佑は頭を撫であやすと「
「キミって呼んでだけと少し距離近くなれたかな。まだ、不安や怖かったりするかもだけど……一週間よろしくね、葵くん。キミ呼びしててごめん。警戒してるから慣れたら聞こうと思ってたのもあって……ほら、突然呼ばれたら一気に距離縮まるから。あーごめんね……」
背中を擦りながらしゃがみ抱きしめると達也も加わり、ワシャワシャと髪の毛を乱す勢いで撫でる。
「かーみーのけぇー」
泣きながらも言う
「辛かったね……よくここまで我慢できたよ。一週間はお兄さん達が一緒にいるから少しずつ打ち明けたいことは話で解消していこう。帰るまでにはキミを少しでも前に進めるようにサポートするから、抱え込まないでしっかり話してね」
二人に服を握り締め、泣き続ける葵に光佑と達也は目を回せ笑っては「よし、泣き止んだらお花の続き。やってみようか」と急かすことはなく、休みながら手が止まったら気晴らしで会話や見学。それを繰り返しながら店の閉店時間“十七時”過ぎにアレンジメントが出来上がる。
「出来た!!」
「よく出来たね!! 今すぐ読み取りたいけど閉店時間でその後に閉園時間も迫ってるから三十分ぐらい待てるかな。その間にお兄さん達が片づけと見回りしてくるからね」
光佑はスマホを確認しながら「えっと……閉園時間が十八時でまだ時間があるけど……やるかぁ」と外に出る準備。その時、微かに感じた花の香りに手を止め、振り向くとアレンジメントに挿さず「クンクン」と黄色のフリージアの香りを嗅いでいると葵の姿に薄く笑う。
「僕たちの家に持って帰っていいよ」
「うぇぇ!?
でも、売り物じゃ!!」
「葵くんが気になったり、好きなら誰も文句は言わないよ。でも、黄色のフリージアが気になるってことは――香りと色に少しだけ安心して勇気を貰ってることなのかな」
光佑の予測的な言葉だが「うん……」と隠したり、否定してたが何処か恥ずかしそうな声。
「葵くん、待ってるの寂しいなら一緒に来る? また戻ってくるから嫌だったら無理しないで。ほら、閉店時の体験って普段僕ら推奨しないから声かけるの少なくて貴重な案件だなーって今思って」
声かけることが少ない。
その言葉が恐怖を強めたか、葵が微かに震える。
「あ、怖いことはないよ。来店者が残ってないかの確認とゴミの回収と点検。広いから四人で一緒にやることが多くて。あと、花の確認とかね」
不安にさせた分、しっかり説明し業務を伝えると「怖くないなら」とオドオドしながらも立ち上がると様子に「閉店前だから馬鹿みたいにふざけることもあるけど、その時は葵くんも紛れていいからね。男子校とか休み時間の男子の絡みみたいなこと起きるから」とハハッと笑いながら個室を出ては一階へ。
※
明るい店内は閉店のため青いライトに切り替え、薄暗い状態。カウンターに暗くなることを備えて懐中電灯があり、光佑はそれを手にとっては明かりがつくことを確認し入り口へ向かう。
その時、話していたこととは違う葵の弱みを見抜いた光佑は素早く懐中電灯を点け「これ、持ってていいよ」と手を繋ぎながら外へ出た。
正午に来た時は雲ひとつ無い空は、月に照らされ暗闇に染まる。その暗闇は地球のリズムを考えたら仕方ないものだが“考えを変える”と驚異でもある。
「葵くん、暗闇だめでしょ」
「なんで分かったんですか!!」
「見れば分かるよ。漆や涼ちゃんは得意だろうけど僕や達也は好きじゃない。だって、僕や達也の色は黒に染まりやすいから――それが怖くて普段は漆に任せることが多いんだけど。なんか今日は――皆で乗り切らないとなって思ってさ……」
優しく腕を引っ張りながら暗闇に染まり、昼とは違う雰囲気を漂わせる花園を進む。花園の中心にある噴水に足を運ぶと腰掛けた漆と涼。立ちながら懐中電灯で遊んでいる達也。そこに葵から手を離し加わると四人は一斉に口を揃えて言う。
「ようこそ、僕達(俺達・私達・自分ら)の楽園へ。短い期間だけどよろしく(な・ね)」
四人の歓迎する言葉に葵はまた泣き出しては「こちらこそ、よろしくお願いします」と泣きながら四人の元へ飛び込んだ。
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