花は心を映す鏡2
「はい、では……お花選んだと思うから挿そう!!」
光佑はプラスチックの丸カゴと大きさに合わせて切った緑色をしたフローラルフォームを少年に見せる。
「それ、なんですか?」
「お花を挿すスポンジ。ただし、一発で挿さない――なんて言いたいけど、これには関係ないから自由に挿してほしいから差し替えても大丈夫。でも、このままじゃさせないからフラワー缶の水に浸すよ」
ポイッとフラワーフォームを投げ入れ、その間に光佑はシューズのおかわりを準備。少年は不思議そうにフラワー缶を覗くと、浮いているフラワーフォーム見つめた。徐々に沈んできたか、静かに緑から水分を含んだことにより深緑へと変わっていくフラワーフォーム。それを見て「沈んだ!!」と驚いては光佑が拾い上げる。
「あっ!! セロファン忘れた!! ごめん、持っててね……」
光佑が何を言っているのか分からず、無言で待っていると「ごめんね。お兄さん、花屋なのに肝心なもの忘れてたよ……」と光佑の手には透明なセロファン。
「んー? それ、何に使うの?」
「別に必要はないんだけどモノによっては汚れ防止。本来はアレンジメントのラッピンググッズ、花束のラッピング、束花とかに使うよ。あ、でも……次やるときはお任せするかも」
「えぇ!!」
光佑の言葉に嫌な気配でも感じたのか構える少年。
「冗談だよ。少し反応見たかっただけだからゴメンね」
喋りながらカゴにセロファンを敷き、その上にフローラルフォームを入れ、上から押してカゴへと突っ込む。少し大きめに切っており、押したことで少し削れ、自然と大きさが合わせさり、ブレることなくカゴに綺麗に収まる。
「はい、下準備完成!! 後はキミの自由だよ」
少年の前に優しくカゴを置き、漆のフローラルポーチも一緒に置く。
「技術面は気にせず、好きに挿してみてくれるかな。邪魔だと思うから僕は一旦下がるよ。下の階で達也と店番してるから終わったら呼びに来てくれるかな? 時々、見に来るけど……」
少年の様子を見ながら光佑は声をかけ、少年が一瞬落ち着かない雰囲気を出すも落ち着こうと手をグーにしている仕草に「ハードル高かったかな」と少年の隣へ。しゃがみ込む、手を握り、いくつかの言葉をかけながら手の感覚・表情・態度・声色で判断することに。
「一緒がいい? それとも、外がいいかな。それでも緊張するなら離れるけど――ん、もしかして鋏怖い?」と光佑の言葉に小さく頷く。
「じゃあ、お兄さんが切ってあげるから一緒にやろうか」
花を取り出そうと立ち上がると「待って」とズボンを握られ足を止める。
「ん?」
「なんで……光佑さんと漆さん、ううん、他の人達もだけど――わかるの? ボクの気持ち」
その言葉に少し低い声で「なるほど、漆わざと話さなかったんだ。そうだね……普通に話すのもつまらないだろうから作りながら話そっか」と光佑はフラワー缶を引き寄せ、自身のフローラルポーチから鋏を引き抜く。それは漆とは違う市販で売ってる鋏とも違う。見た目が普通のハサミの花ばさみ。
「あれ、鋏違う」
「キミみたいに恐怖や不安を少し感じる人向けに人のために各自持ってるんだよ。花も切れてワイヤーも切れて、紙も切れる優秀な鋏。この方が見慣れてるから怖くないでしょ?」
「うん……それなら、刃が怖くないからお花挿せそう」
「よし、じゃあやってみようか」
花を選ばせ、切って欲しい長さに切ってやり初っ端から話しかけず、少しだけ少年の状態を確認。怖がってないか、不安がってないか。逆に挿す時に何が怖いのか、何が不安なのか。それを注意して見ていると光佑は脳裏で『判断力』が少しだけ無いこと『自信がない』気がしすかさず口を開く。
「怒らないから“此処”って場所に挿してみようか。ひと目で気になった場所や確定した感じがしたらドンドン挿していこう。色とか形とか気にせずにね」
選んだ花を五本ほど挿したところで軽くアレンジメントを見て「不安があって、安らぎが欲しいくて誰かを頼りたい。でも、それが出来なくて怖いでしょ」と軽々答える光佑にゾットしたのか顔を見られまいと少年しゃがむ。
「別に悪いことじゃないよ。軽く読み取っただけだから気にしないで。正確に見てないから確実とは言えないし」と少し笑いながら伝えるも「すみません、図星です……」の言葉に「ごめん、だよね……」と静かに返す。
「流石に此処まで見抜かれたら怖いよね? でも、此方も好きでやってるわけではないよ。伝わるんだキミの気持ちとか苦悩が……能力とかじゃなくて“体質”の問題だから。なんて言うけど外れることもあるし発動しないときもある。結局は勘なのかなって思うけどそうでもない。なんだろうね、これ。多分漆から聞いてると思うんだけど……」
光佑にしては珍しく優しい口調が少しだけ堅苦しく口調。必死に怖がらせないよう噛み砕いているのもあるのかぎこちない言葉に「あぁ、もう……変な言葉になる」と深い溜息。
「難しい話になるけど繊細な人を【HSP】って言うのは知ってるかな?」
「し、知らない……」
「えっ!? うそ、ホントに!!」
「な、なんですか……それ……。習ったことないし、漆さんからも聞いてなくて」
「あーじゃあ……説明するしかないか。それ、挿したら一旦手を止めて休憩しよう。慣れないことすると変に疲れるでしょ」
花を切り、フローラルポーチに一旦鋏をしまう。すると、最後に放った何気ない一言が少年の図星や考えを刺激する形となったか。
「ぎゃーなんでわかったんですか!!」と驚いた拍子に花を挿す姿がなんとも可愛らしく光佑は肩で息をするように笑う。
「変に神経使うに変に考えるし、自分の意見や考えがあってるか分からなくて自信がない。迷ってるんだよね、多分」
時より安心させるためか光佑は言葉を選びながら言う。たが、それは何処か苦しそうで少年に見えないように震えた手を隠しながら対応していた。
「軽く掃除するね」と一旦部屋を出てロビーに設置されている掃除用具ロッカーに手を伸ばすや「さっきは悪かった」とずぶ濡れ状態の漆と背を合わせる形で立ち止まる。
「すごい怖がってたよ。ダメだよ、お客さん怖がらせちゃ!! 軽く悪者になるのはいいけど、達也も漆も本当はいい人なんだから程々にね。僕達がカウンセリングするのにトラウマ・不安・恐怖植え付けちゃったらどうするの? もう……」
説教しつつ箒を取ると「集団・個人。どちらか分かりそうか?」と先程の行動で【何か伝えつつも何かを暴きたかった】漆。
「“怖がってた”んだけど【それ】が漆の“態度”なのか“声色”か“圧”なのかは見抜けなくて。いや、見抜けないっていうのはおかしいのかな……」
難しそうな顔をする光佑に「個人を覗く全部じゃないのか?」と腰に腕を当て冷静に漆のが返す。
「え?」
「あくまで私の予想だが“二人”よりも“複数人”居たほうが効果があるかもな。達也と涼を呼んできてくれ。少し芝居をする。年下に暴言吐くのは嫌だが、言葉で話すより態度や表情で見抜いたほうが此方は動きやすい」
「漆……さり気なく訂正するけど。漆の暴走見てたらなんか慣れちゃったんだよね……。というか、漆よりも怖い人いない気がする。だって、こう話してても怖いし。殺気がスゴくて……袖にナイフ隠してるなんて子供に言える訳無いじゃん」
嘘泣きするように両手で顔を覆う光佑。流石に光佑の言葉が聞いたか――と思いきや「罪ありに“それ”を言うとは馬鹿な奴」と開き直る発言に光佑は顔を覆っていた手をレザーグローブをして素肌が見えない漆の手を拾い上げる。
「馬鹿言わないで!! 漆、お願いだから無理しないで。漆が居なくなったら僕らがいる意味が無くなる……。【あの人の元へ逝こう】とか【これは私の罪】だとか追い詰めないで欲しい。――僕は漆が怖い。“漆が怖い”っていう意味じゃない。今にも“死にそう”で“消えそうだから”怖い。その意味で――」
と、話していると視線を感じ口を閉ざす。
「あっ……ごめんなさい!!」
視線を辿ると少年が覗いており「気にするな。謝罪に来ただけだ」と何もなかったようにかわす漆に「待って話が――」と光佑が口答えすると大きな手が喉を掴む。
「うっ……」
そのまま壁に押し付けられ、首を絞める手に力が入り苦しさが一段と上がる。
「う……るし……」
「此方も少し訂正させてもらうが――私が本気を出せば貴様だろうとアイツらだろうと――簡単に【殺せる】」
不機嫌な声で言い放つ言葉とは裏腹に漆自身は苦しくて辛いのか。目は――悲しそうで「本来なら私は……お前らの前で死にたい」とその言葉は本音か。長くいる光佑ですら見たことのない暴走して本音を言いやすいからか薄くだが笑っていた。
「漆、お前また!!」
異変に気づいた達也が漆に飛び掛かり、騒ぎを聞いて来たと思われる涼は「ねぇ、アンタ」と達也乱戦の場を見せないよう立ち、少年に声かける。
「え……あっ……ふぁい!!」
テンパり今にもパニック起こしそうな状態に「自分、敵じゃないから大丈夫だよ。まぁ、ウルはバリバリ敵にしか見えないけど……」と無理矢理少年を個室に押し込んでは漆のポーチから黒いハンカチで包まれたモノを抜き取る。
「な、なんですか……それ」
「ん、言ったら多分大泣きするから言わない」
「え……ヤバいものですか?」
「……ウルが暴走したときの即効性の高いブツ」
「ブツ!? や、薬物ですか!!」
「……アンタがそう思うのならそう思ってていいよ。でも、本当ならウルも使いたくないだろうにね」
急いで涼は部屋を出ると達也に馬乗りしてる漆の姿に「漆の旦那、今すぐ離れねぇーとブツ打つぞ」とノボノボした涼の言葉がこの時だけ荒くなる。それにビクッと鋭く反応した漆は睨むように涼を見て「断る」と嫌う言葉に「じゃあ、さっさと達也から離れて消えな。そうしないのなら打つまで追いかけ回す」と腕を捲くる姿に漆が一言。
「お前、私よりも足遅くなかったか?」
「うるせー!! 旦那が無理に暴走しなきゃ自分はハンドメイドの発送終えてのんびり出来たのになにしてんだぁぁぁぁ!! 漆の旦那なんて嫌いだー!!」
さりげない煽りに怒るが下手な涼。
「嫌いで結構。なら、私も貴様など嫌いだ」
注射以外何を言っても動じない漆の“嫌い”の言葉が涼のメンタルを傷つけたか。「悲しい……」と強気な彼は一体何処へ。床に蹲る。
「涼ちゃんのカッコつけて放った言葉が漆に倍返しされて凹んでる……」
「ダサい……っか、そこは頑張って押し切れよ……おい、肝心な注射器……」
壁にもたれてる光佑と馬乗りされてる達也は苦笑いするしか出来ず。「“言葉の刃物”とやらが足りないならお前らにもやってやろうか」と愉しんでる漆を少年は見つめ“何かを思い出した”。もしくは、この状況が思い出したくない何かと一致したか。
「はぁ……ハァッ……」と乱れた呼吸と通常にしては早い発作の症状に「私は馬鹿だな」と漆が涼が握っている注射器を引き抜き、自身の太ももに突き刺してはそのまま倒れそうな勢いで少年を抱く。
「お前はなんで黙ってるんだ。嫌だとか、怖いとか口があるなら言えるだろうに。いや、違うな……助ける人がいない。信用できない。それらとそれ以外のを含めたら――助けて欲しい、など言えないか。隠していたが私も酷くイジメられことあるんでな……すまない。キミが心を開いてくれたら、そのときは罪滅ぼしさせてくれ」
少年の力では漆を支えることも出来ず、倒れそうになりながらもその場に座り込むと漆は片手で少年を抱きながらスースー寝息を立てて寝ていた。
漆の事情と漆の過去を少しだけ知った少年は「なんで皆さんは……こんな自分を削ってまで……」と四人の行動に涙を浮かべ、過呼吸混じり大泣きすると「イジメられてたのボクだけじゃなかったんだ……」と“カウンセラーは経験のない人”または“上辺だけの人”という自己解釈があったのだろう。
「黙っててごめんなさい……実はボク……」
と、少し漆の行動で強引ではあるが来店した時と比べ、花に触れたこと体験や見学をしたことから少しずつ打ち明けられるようになったか。泣きながら時に過呼吸になりながらもこれまでの経緯と事情を全てではないが話してくれた。
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