第3話

「いきなりどうしたの? なっちゃんって、誰?」

 ボクのつぶやきに反応しているのがわかる。

「名前は覚えてないんだ。あだ名がなっちゃんということだけ」

「その人がどうしたっていうの?」

「いつのまにか、いなくなったんだよね……」

「また? いったい何人いなくなるのよ?」

 ボクはふぅっと息を吐き出す。確かにボクの周りからいなくなった人はいた。しかも、何の音沙汰もなく、だ。ずっとどうしてだろうと思っている。その理由は今もわかっていない。

「それで? そのなっちゃんとはどういう関係なの?」

 彼女があきれたようにきいてくる。

「……なっちゃんは、中学の時に付き合っていたのかな? わからないけど少なくともよく遊んでいたから仲のいい女の子だったんだ」

「……いったい、どれだけモテてたのよ、この人」

「よくとはいっても、そんなに長いっていうわけじゃなかったように思う。確か四月くらいから八月に入る前くらいの三、四カ月っていうところだったかな」

 空を見上げると、星の海を進む月の船が雲の波をちょうど越えたところだった。風が強いのかはわからないが、だんだんと雲は離れていく。

「隣のクラスの女の子だった。小学校は違ったから、中学に入ってから知りあったんだけどね。結構大変だったってきいてる」

「大変?」

「弟くんがいるらしいんだ。会ったことはないけれど。その弟くんはあまり強い子じゃないらしくて、お母さんがその子につきっきりだったんだって。しかも、その弟くんとなっちゃんは年が離れていたから、なっちゃんのほうはどうしても一人でいることが多かったんだって」

 なっちゃんはボクの目から見ても大変そうだった。勉強をしながら、家事もしていたみたいで、掃除や洗濯はある程度は自動でしてくれるロボットを使っていたみたいだけど、ご飯は自分で作っていたような気がする。

「お母さんはほとんど弟くんのとこに行ったきり。お父さんも仕事で遅かったらしいから、半分一人暮らしみたいなものだったのかもしれない。それでも八時くらいには、両親が帰ってきていたみたいだね」

「なんでそんなことがわかるの?」

「七時くらいまでお邪魔していることもあったから。毎日じゃないけれどね。僕もなっちゃんも部活には入っていたから」

 隣に座る彼女が目を大きくしながら、ボクの方をみてくる。

「部活ってなっちゃん、何部だったの?」

 そう彼女がたずねてきた。

「なっちゃんは料理研究部だった。本当はバレーボール部に入りたかったみたいだけど、両親のために料理を練習するんだって言ってた。たまに作ったものを持って帰ってたって聞いたことがある」

「あれ? あなたって確か運動部だったよね?」

「ボクはバドミントン部だったから、部活での接点はなかった。ただ、何かの授業で合同でするっていう時に、たまたまボクはなっちゃんと同じグループになったんだ。それから何となく仲良くなっていったっていう感じかな」

 何の授業だったか。もう何十年も前のこと。さすがに覚えてはいない。ただ、なっちゃんが授業中に困っていた時に声をかけたのが、仲良くなるきっかけだったような気がする。そういえば……。

「そういえば……その合同の授業の時になっちゃんに声をかけたら、ちょっとだけ驚いたような、不思議な顔をしていたような。何か違和感があったんだよな。何がっていうわけではないし、なっちゃん自身にきいたこともなかったけれど」

「どういうこと? 何かあったの?」

「何もなかったと思うんだよね。ボクが知る限り」

「もしかしたら、その当時からあなたモテてたのかもね。小さいときからお姉さんと遊んでいたんだし」

「……」

 ボクがモテていたなんていう記憶はない。事実、なっちゃんがいなくなってからはなかなか女の子と仲良くなることなんてなかった。もちろん、授業や休み時間で女の子と話す程度のことはあったけれど、特定の女の子と二人だけで遊びに行くといったことはなかった。それは僕自身がバドミントンに熱中していたからかもしれない。

「それで? 二人目の行方不明者はどうやって消えたの?」

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