タケオ④
妻が娘たちを寝かしつけいる間に母さんに彼女の近況を尋ねた。彼女は嫁ぎ先で幸せに暮らしており、春頃に子どもたちと帰省しているということだった。
よかった。彼女は生きている。海で見たその人は確かに彼女の顔をしていた。しかし最後に会ってから15年以上が経っているのにあのときのままなんてことはあり得ない。だからもしかして幽霊のようなものかと思ってしまった。それに彼女の帰省はいつも春だという。それで何年も会っていないのだと納得した。夏はご主人の実家へ行くためということだが、暑がりな彼女は単に暑い時期にこの蒸し暑い土地に帰ってきたくないだけではないかと思い少し笑いが込み上げた。
他人の空似だろうか。だが、確実に俺を見ていた。そもそもそれが勘違いなのでは。
確認しようのないことを考えてもどうしようもない。妻と子どものいる部屋へ行くと妻は子どもと一緒に眠っていた。海で疲れたのだろう。俺も就職してからたいした運動もしていないから明日は筋肉痛だろうなと思いながら横になった。
次にその人を見たのは2週間ほど過ぎた頃だった。自宅に戻り、またいつも通りの生活を繰り返していた。まだまだ暑さが続いていて夜になってもセミがうるさく鳴いており、仕事の疲れを倍増させられているような気がした。自宅は最寄り駅から十二、三分歩いた程度の場所にあるが、たったそれだけの距離を歩くのも億劫にさせるほど暑かった。帰路の途中にある公園を横目で覗くとその人は街路樹を見上げていた。思わず立ち止まって見つめてしまう。やはり昔と変わらぬ姿に違和感は感じるがとても別人とは思えない。そもそもこんな所にいるはずがないのだ。声をかけてみようか悩んだがやめて背を向けた。早く帰ろう。そう思ったときだった。
「アイス食べる?」
実際に聞こえたわけではない。単に昔の会話を思い出しただけだ。振り返ってその人が立っていた場所をもう一度見るとその人はもういなかった。
真っ直ぐ帰るのはやめた。暑いし、アイスでも買って帰って家族で食べよう。
青い鳥 蒲公英 @pokotaro2023
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。青い鳥の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます