タケオ③

大学2年の夏休みに帰省すると彼女が結婚したことを知らされた。大学で知り合った恋人の地元へ嫁いだそうだ。あまり背が高くなく、庭でアリを眺めたりアイスを食べていた姿ばかりを見ていたので同い年くらいに感じていたが彼女は当時大学生だったのだ。卒業して結婚しても何の不思議もない。驚きはしたが漠然とどこかで幸せになっているのだろうと思った。


大学卒業後はそのまま大学のある地域で就職して、友人の紹介で知り合った女性と結婚した。子どもも2人、娘を授かった。正月と盆は両親に孫を見せに実家へ行った。あまりいい思い出はない場所だがたまに行く分にはそう悪くはない。娘たちに田舎の祖父母がいるというのはいいことだと思う。


その年もお盆に両親のいる田舎へ行き、娘二人と妻を連れて海へ行った。もう少し遅いと大量にクラゲが発生するため海水浴をするにはギリギリの時期だ。朝から娘たちの浮き輪を引きながら泳ぎ続けてすっかりバテてしまった俺は娘たちを妻に任せて日陰で休憩していた。3人は波打ち際で貝を探しているようだった。


今日は家族連れが多い。うちの家族のように夏休みで子どもたちを海に連れてきているのだろう。ふと一人の女性に目が行った。海水浴に来ているというよりただ散歩をしに来たような様子だが、俺の方をじっと見ている。思い出すことはほぼ無かったが、忘れるはずはない。その人は静かに笑っていた。

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