アセビア王国

アセビア王国の成り立ちは十五年ほど前だ。数年前まで人間は数人の部下と多少の領土を持つとそこを自分の国だと宣言していた。アセビア王国もその一つで誰も注目していなかったが八年前からその評価がガラリと変わった。アセビア王国は一気に他の国の領土を手に入れに行った。時には戦争で、時には金銭で、時には交渉で。女を使ったやらあまりに凄惨な拷問をしたやら王は自分のクローンを何体も作っているやら噂が多くある。しかし二ヶ月前、彼は確かに人間の住む土地とそこに住む全ての人類を自らの国のものとした。他種族からの介入が存在しなければこれ以上国を広めるつもりはない、アセビアの王はそう宣言しているがそれを信じている種族はまだ無い。俺も信じてはいなかったが…ナッチがあの王にかなりの好意を示している、そんな人物なら多少は善人であるだろうからそのままこの誘いに乗ることにした。


「モク」


魔力を放出しながら名を呼ぶ。すると目の前に小さな光の粒が現れた。それに少しずつ魔力を分け与えてやりながら口を開く。


「カイは何処にいるか分かるか?」

「水の子ですよね?魔力が作れない…そう、ソラくん。彼の部屋にいますよ」

「ん、サンキュ」

「いえ、この程度でお役に立てるのでしたら嬉しいですわ」


モクはそう言うとフッと姿を消した。そんなに卑下しなくてもずっと世話になってんのになぁ、なんて思いながらソラの部屋に向かう。多少離れていても聞こえる楽しげな声に愛おしさを感じながら一瞬だけソラの部屋に魔力を飛ばす。ポチャ、という沈んだような音とバタバタと騒ぐ足音。そして二人はすぐに部屋から出てきた。


「ボクは怒ってます。ゼロ」

「ソラも!二人で遊んでたのに…」


そういいながら二人が手にしているのには多くの複雑な図形が描かれており端の方には様々な言語が書かれている。俺ですら理解できないそれはきっとこいつらには意味があるのだろう。そんなバケモノじみた才能をこいつらは持っている。


「…ゼロ」

「わりぃな」


カイの責めるような視線に謝罪を落とす。カイはん、と小さく頷きソラはふふん、と満足そうに笑った。


「あ、父さんは何でこっちに来たの?驚かせるためだけにこっちに来て魔力を飛ばしたんじゃないでしょ?」

「あぁ、カイに用があってな」


そう言うとカイは思いっきり顔を顰めながらソラを抱きしめる。それに対してソラは不思議そうな顔をしながらカイの頭を撫で始めた。


「…ボク、ソラから離れる気は無いです」

「今回は少し出るだけだ。完全に実家と縁を切るとしても少しは話さねぇといけねぇだろ。今回はその練習だ」

「ボク、ソラから離れる気は無いです。無理矢理でも引き離そうとするならこの魔法陣を発動させます。一生体が離れなくなる魔法です」

「何でそんな無駄な魔法作ってんだよ!」


既存の魔法を少し変えるならともかく魔法を開発する事は数十人単位で早くても三年はかかるという。たった二人で魔法の開発、しかも魔法陣という未だに作製できた前例が無いと言われているそれを、作った?数年前に魔法陣の開発について進展情報を記した本を読ませたことはあったが…専門的な何かへの研究、開発には向かないと言える環境で遊びと評して作るものではない。


「ボクが感覚で魔法を作ってソラが理論化しました」

「それをね、魔法陣にしたんだ!思ったより時間はかかっちゃったけど…でもね、どんな種族でも発動できるよ!」


ニコニコと笑う二人にハァ、とため息が溢れる。二人はきっと、子供が外で遊ぶように楽しんでいただけなのだろう。


「…とりあえず、カイ出るぞ。ソラはどうする?」

「ボクは絶対なんです?」

「カイが行くならソラも行く!ね、一緒にお外行こ?」


キラキラと好奇心に目を輝かせながら尋ねるソラにカイは降参するように両手を上げた。

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