招待状

ニーシャが朝食を食べ終わる頃には全員何処かへと行ってしまっていた。ニーシャは食器を片付け洗い始めているし俺はどうしようかと考えていると窓に蛇のような影が映りこんだ。それに小さくため息を吐きながら外にいる友に声をかける。


「用があんならドアから入れって言ってんだろ」

「ですが、それでは面白くないでしょう?」


低く嗄れた男の声だ。今日はそんな気分なのかと呆れながら精霊に少しの魔力を分けて窓を開けさせた。窓から一気に入ってくるのは白銀の蛇。真っ直ぐと俺の方へ近付くが俺に触れることはなかった。その事にハァと悲しげにため息を吐きながら現れたのは一人の美しい男であり、俺の友人でもあるナッチだ。見た目だけなら儚げそうであり、俺のような強い奴が触るどころか近付くだけで倒れてしまいそうな奴だが…こいつは人間でありながらその何倍も生きた俺より出来ることの幅が広く、特に魔法は悔しいが俺よりこいつの方が上手であるのは事実だ。ナッチは周りを見渡して俺しかいないことを確認すると肩を落としながら己の髪にかけていた魔法を解く。白銀の蛇はさっと解かれ床までつくほどの長さの髪へと戻る。


「ソラくんもカイくんもユウさんも、それどころかルフくんやニーシャさんまでいないなんて!わざわざタネを仕込んだ意味が無くなってしまいます!」


今度は普段の、遠くへよく通るようなきれいな声で言う。こいつはコロコロと声を変えるから何が本当の声か分かったもんじゃない。


「…何の用だよ?どっかの種族へ復讐とかか?それとも詫びなきゃいけないから手伝えとか?」


問いかけながらもそれは無いだろうと確信していた。こいつが本気で頼むならやってやるがそんな事より人を楽しませることを是とする奴だ。そんな事を考えてるとナッチはニンマリと笑みを浮かべながら口を開く。


「そんなつまらないことをするはず無いじゃないですか!しかし…私一人の問題ではないのでこちらまで来ていただけませんか?そこで詳しい話をしたいです。あぁ、何人連れてきても大丈夫ですよ?私もクルーガくんに声をかけてから戻りますので」

「分かった。そんじゃカイを連れてくっか」


カイは俺達から離れるにしろ離れないにしろ一度しっかり話さないといけない所がある。だが、今のままだと人間社会での地位を持つやつの話し方を知らずに育ってしまう。そうして口で丸め込まれたりしたら後悔するから今のうちから少しでも学ばせておきたい。


「分かりました!それではこの招待状を。門番に見せれば一発で目的地まで案内されますよ」


ナッチはふふ、と楽しげに笑いながら転移魔法を使う。渡された招待状にはイチョウとモミジの葉に挟まれアセビの花が描かれている。それは人間の…アセビア国の王のみが使っている紋章だった。

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