第4話 私の悩み

 家に上がると蛍光灯が点けっ放しである事に目が止まった。数匹の蝿が明かりの周りを飛び回っていた。床下の入り口を開けっ放しにしていたのには驚き、急ぎ覗いて金塊がある事を確認した。蓋をしっかり閉めた事を確認して、床に一人座った。


 蝿の飛ぶ音が聞こえる。

 妻のいる気配はない。

 孤独感が襲う。

 妻との最後の意思疎通は、

 出来てなかったんじゃないか?

 という自己不信感。

 最後、牧師の声掛けで、

 妻は我が宗派に入れたのか。


 これらが翌朝を迎えても、頭の中を延々と巡っていた。

 あやめは救われなかったんじゃないか。

 天に召す事が出来なかったんじゃないか。

 私の焦りからか。

 答えはあやめだけが知る事なのか。


 この悩みはいつの時も頭から離れる事がなかった。

 教義に従った日常に安らぎを求めるしかなかった。

 この教団との出会いにすがるしかなかった。


 暫く過ぎた頃、漸くあやめのご両親の墓まで報告を兼ねて、行く機会を設けた。地理上は南東二十キロメートルの高台にある霊園の一角だった。

 私はカバンにペットボトルと手帳と財布という軽装で向かう事にした。

 電車を乗り継ぎ、黄色いバスに乗り換え高台へと迫って行った。高台の草花は枯れたまま至る所、墓石を覆い尽くしていた。

 何とも管理されてない約二キロ四方の墓地だった。

 ここから森田家ご両親の墓を探すのは大変だ。しかし、やらねばならぬと奮起した。


 日も傾き六時間程経った頃だろうか。草葉で覆われた墓地は、墓石の名前が確認出来る程、清掃された。

 森田家の墓石は東側から三列目の北から五列目にあった。墓石は斜めに立っており、しかし、名前ははっきりと彫られていた。前に屈んで、間違えず手の平と手の平を合わせて、目を瞑った。

 あやめが余命宣告を受けても、決して不幸ばかりではなかった事、洗礼を受けさせて自分の宗教に移した事、その時、あやめが洗礼を認識出来ていなかった事、今はお骨となり、教団施設の地下に骨壺に入れ、集団葬されている事などを伝えた。


 風が吹き抜けて行った。森田家の墓は何も語って来なかった。無駄足だったか。そうとも思わなかった。異教徒同士の対話は暫し沈黙の中で行われるらしいと曖昧だが聞いた事があった。

 来る時感じた妙な不安も、帰りの黄色いバス待ちの頃には、呼吸が楽になっていた。私の中に少し変化が起きていた。

 バスに乗車すると、三人の元森田家の気配を感じていた。この時は未だ。

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