第3話 白衣の男達

 電話の子器を上げて教団支部に急いで連絡を入れてみた。妻が亡くなった事を伝えた。女性信者がこっちに人と車をよこすと伝えてきた。

 電話を切るとこっちも準備に入った。

 床下から木箱を取り出すと、床のタオルの上に置き、埃を取り除いた。箱を開けると眩いばかりの金塊が二本と小粒の塊が現れた。片方のあやめ用の延棒を持ち上げた。

 彼女は障害基礎年金で貯めたお金を、金塊にしていたのである。金塊で貯蓄する事には、抵抗がなかった。私のよりも重い感じがする。

 それを白布に巻いてポケットに入れ込んだ。小粒の金塊と一緒に。

 妻の仏壇から両親の写真を手に取ると、同じくポケットに入れた。

 玄関ドアを開けて待っている様にとの指示だった。

 非常に落ち着かない気分だった。妻が近いうちにこの部屋からいなくなり、私一人になると思うと、身体がざわついた。


 外で自動車の急ブレーキが鳴る音がした。

 数分と待っていると、白衣を着た男達が五、六人、棺を抱えて入って来た。布団の横に棺を置き、男達は静止した。

 年長の男にあやめの金塊を渡すと、彼らは再び動き出した。

 彼等はあやめの心臓拍動停止と呼吸停止と瞳孔散大・対光反射停止を確認した。


 二〇二二年三月十一日 十時十分死去 白松あやめ


 白衣を着る者は、手際良くあやめを棺に入れた。一人の牧師が質問した。

「棺の中に入れる物はあるか」

 焦りながらポケットに入れた両親の写真を入れようとした。

「これは故人の両親か。良い良い、構わんぞ、我らが教団でなくとも」と老人は答えた。

 棺を抱えた四人は、速やかに玄関の出入り口を通って外に出て、外に止めてあったシンプルで漆黒のワゴンの後部から、彼女の棺を入れた。

 私もいそいそと車に乗せられ、彼女と共に教団支部に向かった。


 私はいつも行く教団支部に、今回は初めて火葬に参った事になる。この宗派は原理主義派的側面があり、飾り付け、人数もシンプルで、葬送の祈りもシンプルだと聞く。私の時は宗教関係者だけで行われそうで少し切ない。

 この施設に一台だけある二階の火葬炉まで、エレベーターで上がった。

 意外に広い火葬場に驚くと、牧師が最後の別れの時間ですと告げた。奥の棚から素焼きの立方体の骨壺が運ばれて来ると、動きが止まった。

 つかさずポケットから、小さな金塊を牧師に渡すと彼は動き出した。棺の蓋を開けて、あやめを見て、触れた。身体は冷たくなり、手に両親の写真を持っていた。

「もう十分だろう」と誰かが言った。

 蓋の四隅を釘で固定した。これであやめの姿を拝む事は出来ない。涙が頬を伝った。

 火葬炉の中に棺を入れ、炉の入り口の蓋を閉めた。


 火葬炉に入って一時間以上過ぎた頃、炉の蓋が開き座っていた我々の所に、あやめが引っ張って来られた。牧師は簡単な祈りを捧げ、火葬師二人が遺骨を素焼きの骨壺に入れて行った。

 地下の納骨所に向かう為、骨壺の蓋を閉めると、エレベーターへと向かった。

 冷やされた空気が身を包み、最低限のLED電球しかなく、天井は低くなっていた。牧師が先頭を歩き、それに皆がついて行った。エレベーターからざらつく地面を随分と奥へ奥へと歩き、二十分ほど過ぎた所だった。

「ここの下から三段目が奥さんの納骨スペースだ。その右が君の場所だ」やや聞き取りにくく牧師が言った。

 妻の骨壺をそっと押し入れると、牧師から十字架を手渡された。それを首から下げ、入り口の方へと戻って行った。長く続く骨壺と欅の棚。いずれ私もこの中の一人になるのか。これが私の選んだ信仰なのだが。

 漆黒の自動車で自宅まで送って貰った。

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