1-29. 『罠師』、Sランクになる。
「新しいスキルはあ、試しがいがありますね♪」
ソゥラは興奮冷めやらぬといった感じでケンとアーレスに話しかけている。
「そういうきっかけでスキルを覚えるのですね」
アーレスはただただ驚いている。ケンもまた少し驚いたような顔で口を開く。
「きっかけは色々とあるけれど、今回みたいにスキルを認識できる何かがあればいい。戦闘でなくともね」
「そういうきっかけは『観察眼』では分からないものですか?」
ケンは首を横に振る。
「まあ、無理だね。さすがに前情報のないものを観察したところで推測も立たないから」
「なるほど」
アーレスは納得したようで、それ以上は口を開くことがなかった。
「しかし、『分身生成』か。昨日珍しく一緒に酒場にも行かずに部屋に閉じこもっていたのは、スキルの確認をしていたわけだね」
ケン、ソゥラ、アーレスの3人は冒険者ギルドに向かう道中だった。昨日、依頼成功の報告をした際、受付嬢から明日にはSランク昇格の通達が正式に出せるという話を聞いたためだ。
「そうですよ。私だって、一応勇者一行ですからあ。それに、分身を作り出すなんて、使いこなしたらあ、いろいろと融通が利きそうですからあ。そう、4人になればあ、昼も、夜も、ね♪」
ソゥラの不敵な笑みに、ケンとアーレスは思わず身震いをした。
「でも、残念なことに分身の行動範囲やスキルには制限があるようです。『色欲』のエネルギー回収は私しか無理ですからあ」
『分身生成』。自身とほぼ同じ能力の分身体を最大3体出すことができる。ただし、『色欲』のエネルギーを1つ消費する。さらに分身体は、『色欲』のエネルギー回収もできない。分身体の行動範囲は狭く、まだ10m程度しか離れることができない。分身体の性格は若干異なり、ガンガンタイプ、いろいろタイプ、だいじにタイプの3タイプがいる。
「ん? そうなら、『分身生成』を夜に使う理由は?」
ケンの素朴な質問に、ソゥラは一度顔を伏せた後にニコリとした笑顔で彼の方を向いた。
「……んふ♪」
ソゥラは人差し指を自分の口の前に当てて、内緒、と言わんばかりのポーズを取る。
「誤魔化したな」
「誤魔化しましたね……」
「さあ、行きましょう♪」
ソゥラは軽い足取りで先にギルドへ向かって行く。
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ギルドも人がまばらになったであろう頃、3人はその扉を開く。
「おはようございます。ケン様、ソゥラ様、アーレス様。お待ちしておりました」
今日も受付嬢は静かな笑みで迎えてくれる。
「おはようございます。早速ですが、僕たちはSランクになれましたか?」
ケンもまた微笑むような顔で対応する。
「はい。おめでとうございます。今回、ケン様とソゥラ様はSランクになりました」
「ありがとうございます。それで……」
「はい。ほかにSランクになった勇者様たちのことですね。前にいただいたお名前ですと、ミィレ様が隣国のランドンケラにあるギルド支部でSランクとしてご登録されたようです。ただ、他2名については、特にご登録はありませんでした」
ケンは小さく溜め息を吐いた。
「まったく、シィドとファードめ。どこで道草を食っているんだか」
「まあまあ。それよりも、お姉ちゃんならあ、こっちに向かって急いで来そうですね。合流も間近です」
ソゥラはケンを宥めるように寄り添った。
「ただ、これは私の友人から聞いた話ですが、ここ数日でシィドという老人がコロシアムで快進撃をしているそうです。その強さはまさに勇者のようだ、とのこと」
受付嬢はまるで思い出したかのようにそう話す。
「そのシィドさんってのはまさか」
ケンとソゥラはお互いに見合わせた後に、アーレスや受付嬢の方を向いて、苦笑を浮かべる。
「まあ、あのお爺ちゃんならありえますね。シィドさんは魔法職のくせに腕っぷしが自慢ですからあ」
「コロシアムで老人が快進撃というのは、たしかに噂になりますね。しかし、老体の魔法職にも関わらず、そんなに強いなんて、さすがですね。心強い味方です」
アーレスがまるで自分のことのように嬉しそうに話している。一方のケンとソゥラはいろいろと複雑そうな表情をしている。
「うーん。シィドはシィドが異常なだけだからな」
「まあ、ただの戦闘狂ですからあ」
受付嬢は小さく咳ばらいをした後、3人の方に向き直した。
「さて、では、改めて、Sランクのケン様、ソゥラ様にはリプンスト王からの指名依頼があります。風の魔将の討伐もしくは撃退ですね。倒せなくとも追い払ってもらえれば依頼達成となります。この依頼を承諾いただけますか」
ケンとソゥラは先ほどとは打って変わって真面目な表情をして受付嬢の言葉に頷いた。
「はい。そのつもりで来ました。依頼の受理をよろしくお願いします」
受付嬢は小さくお辞儀をする。
「承りました。この依頼に期限は設けられておりませんが、できる限り迅速に達成していただけますようにお願いいたします。危険な依頼だと思いますが、どうかお気をつけて」
ケンは笑った。
「ありがとうございます。危険ですが、これが私たちの存在理由ですから」
ケンはソゥラとアーレスを率いて、冒険者ギルドから出て行った。
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