1-21. 『罠師』、ギルドログで自分を知る。
「ギルドログ? ですか?」
「はい。手続きが煩雑ですみません。ギルドログというのは、登録者がギルドを介して神と契約を行うことで、ギルドに関する記録を自動的につけるものです」
受付嬢は羊皮紙を取り出し、一例のような表を見せる。そこには、冒険者の名前、推奨ランク、依頼受注数と達成数や達成率、各ランクに該当する獣や魔物の討伐数などが示されていた。
「このように、冒険者ギルドのログであれば、依頼の受注およびその成否の履歴はもちろん、ご自身が生まれてからの獣や魔物の討伐履歴をログとして残すことができます。この履歴を元に、依頼の受注可否やランクの昇降格の判断をギルド側が行います」
「なるほど。分かりました」
「分かりましたあ」
2人はこれまでの世界でギルドログなるものを見たことがなかったため、少し興味を惹かれているようだ。
「ありがとうございます。それではこちらの紙にこちらのペンを用いて、こちらの線の上に自署していただき、この丸い枠の中に右手の親指を押し付けてもらえますか?」
受付嬢は紙とペンを取り出し、2人の前に差し出した。紙は、『ギルドログ登録書類』と書かれた1行と自署のための横線1本と丸い枠が1つだけ書いてあるだけで、とてもシンプルなものだった。
「すごくシンプルだけど、この紙、ただの羊皮紙ではないね。強い契約の力を感じる」
「たしかに。神様との契約ですからあ」
ケンとソゥラは受付嬢に言われるがままに自署と丸い枠に右親指を押し付けた。
「ありがとうございます。これでギルドはケン様およびソゥラ様の冒険者としての登録を受領しました。並行して受注処理をしておきましたので、これでケン様たちに必要な手続きは完了です」
ケンは一息をついた後に、ふと受付嬢に質問をする。
「そういえば、ちなみに、このギルドログは誰が見られるのですか?」
「あ、説明が不足していましたね。こちらは基本的な設定として、本人とそのパーティーメンバー、あとギルド職員が閲覧できます」
「パーティーメンバーは現在のメンバーだけですか?」
ケンがそう訊ねると、受付嬢は首を横に振った。
「それは本人の設定次第ですね。過去のパーティーメンバーにも継続して見せることはできます。ちなみに、ギルド職員は神とギルドログに関する守秘義務の契約をしておりますから、私たちが口外することは原則できません」
「本人の設定次第、ですか?」
「はい。設定について補足しますと、登録者本人の希望があれば、どなたにでも開示することはできます。この場合に限り、ギルド職員も口外することができるようになります」
ケンが納得した顔をし、ソゥラは続けて質問する。
「開示するメリットはありますかあ?」
「そうですね。たとえば、信頼や過去の依頼と同様の依頼を得るために、受注依頼の成否率を開示したり、中級や上級の討伐記録を開示したりする方はいますね」
「なるほど」
「そのほか、単純に自慢したい人もいますが、開示することで新しいパーティーメンバーを募集する方もいます。開示を希望しますか?」
ソゥラはケンの方を向き、彼はしばらく考えた後に首を横に振った。
「いえ、特に開示は希望しませんが、ただ、今のログの状況は気になりますね。過去の異世界の討伐記録も残っているかどうか」
「なるほど! では、履歴を出してみましょうか。普段はあちらの場所でも出すことができますが、今は受付も時間があるのでこちらで開示しますね」
「さすが神との契約を交わすだけあって、急にこの世界に似つかわしくないオーバーテクノロジーなものが出てきたね」
受付嬢が先ほどの書類の代わりにケンたちの目の前に出したのは、水晶に映し出された宙に浮かぶ2つのパネルだった。1つは受付嬢の方に向かって表示されており、もう1つはケンたちの方に向かって表示されている。そして、彼女が慣れた手つきで彼の個人情報を表示させる。
「こ、これは……。これが魔王を倒したことのある異世界の勇者なのですね……」
受付嬢とアーレスが驚愕する。
詳細はガーゴイル(中級:Bランク)とムカデ型魔物センティプエーデ(下級:Dランク)、あとはEランクやDランクの小型の獣の討伐数しかないが、『詳細不明』の討伐数がランクごとに別に振り分けられていた。その討伐数も各ランクが999,999体を超えた場合に999,999でカウントストップしている。カウントストップしているランクは、E,D,Cランクであり、Bランクもカウントストップ間近、Aランクも10,000を超えていた。
そして、新設されたというSランクにもカウントがあった。
「なるほど。異世界の討伐履歴は詳細が出ずに相当ランクの討伐数で振り分けられてしまうのか。逆に言えば、世界を超えても記録が神の間で共有されているのか、もしくは、この身体に記録として残っているということなのか。どの世界でも新しい知見は得られるものだね」
ソゥラも自身のログを確認した。ソゥラの数もケンには劣るものの、やはりE,D,Cはカウントストップ間近であり、BランクやAランクも考えられないほどの数が表示されている。
「やはり、ケンには負けてしまいましたかあ。モンスターの巣窟を一人で先行して駆除しているだけあって、数が尋常じゃないですね」
「上級でさえ、国が1つ消える可能性のある災害級の魔物や獣なのに……」
受付嬢は先ほどの自分の説明がはたして必要だったのか、と呟きたくなった。しかし、基準が分からなければ、ケンやそれ以外の勇者たちも自分がこの世界においてどの程度のレベルなのか分かりかねるのも事実である。これで分かったことは、異世界の勇者たちは異常に強いということであり、魔王たちもまた脅威的な存在であることだ。
「助かりました。ありがとうございます」
「また来ます」
「それではあ」
ケンたちは、自分たちのギルドログを確認した後、ギルドを後にした。
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