Day29「名残」#文披31題
肌の上に残る熱を、吸い込んだ香りを惜しむようにあの子の体を抱き込む。離さなければと思いつつも離しがたく、もう一度だけと抱きついたところで半ば無理やり引き剥がされた。
「あの。さすがに遅れちゃので。終わりにしてください」
「そんな、酷いじゃないか」
今日から二泊三日の合宿だとかで数日留守にするのである。とはいえ、先程からちらちらと腕時計を気にしているあたり本当にもう時間がないようだ。
さすがにあたしのせいで遅刻させるわけにはいかない。
「冷蔵庫に作り置き入れてますから食べてくださいね。あと、飲み過ぎと不摂生は程々に」
渋々離れはしたもののしょぼくれてしまって気持ちは下がるばかりである。爪先で床を叩いて、あの子が旅行鞄を肩に担ぐ。
「ほら、いってきます」
伸びてきた腕が宥めるようにあたしの体を強く包む。翻った体を追うことはできず、いってらっしゃいと強がって笑った。
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