Day27「渡し守」#文披31題
人通りのない深夜の家路を、閉じた傘を片手に歩く。予報では雨のはずだったが、こんなに遅くなるなら自転車で来ればよかった。 赤信号を前に律儀に足を止めたところで。
ひたり。
と、自分のものでない足音を聞いた。どっ、と背筋に悪寒が走る。信号はまだ変わらない。いっそ無視して走り出したいのに、足は根でも生えたように動かなかった。
ひたりひたり、と足音が続く。街灯に照らされた影が俺の影に重なる。
「いたいた、おかえり」
道の対岸から手を振った彼が、信号が青に変わると同時に小走りで駆け寄ってきた。安堵感に知らぬまま詰めていた息を吐く。背後の気配が少しだけ、俺から離れたような気がした。
「あんまり遅いから迎えに来たんだ。行き違いにならなくてよかった」
そう言って彼は俺の手首を握り、踵を返し歩き出す。つられるように踏み出した足にもはや重みはなくなっていた。
「――オマエもさっさと帰んな」
横断歩道を渡りきった先で振り返った彼は、対岸のナニカに向けて酷く冷たく吐き捨てた。
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