Day26「うとうと」#文披31題

 ようやくメールの送信ボタンをクリックしたところで、ふうと思わずため息が漏らす。夕飯の時間はとうに過ぎ、今更出かけるには遅過ぎた。しょぼつく目元を押し揉みながら振り返ると、俺の鞄を枕にして彼は寝息を立てていた。

 途中から随分静かだとは思っていたが随分待ちぼうけをさせてしまったから仕方がない。音を立てないよう気をつけて、パソコンの天板を下す。


「終わりましたよ……」


 一応声をかけてはみるが、声は自然と小さくなった。眠る彼の傍に寄り顔にかかった前髪をすく。普段と違い無防備な顔に胸の奥がざわついた。

 もうこのまま俺も寝てしまおうか。そう思った次の瞬間、ぐるりと世界が回っていた。


「狸寝入りですか」

「やだな、アイツらと一緒にしないでよ」


 急な動きに先程までとは違う意味で心臓がうるさく鳴る。一瞬で上下を反転させた彼が押し倒すようにして俺を見下ろす。


「さっきの約束、まさか忘れちゃいないだろうね?」


 ぎらぎらと目を輝かせ、その美しい獣はこちらを見下ろし獰猛に笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る