Day25「報酬」#文披31題
「……まぁだかい」
「まだですよ」
思わず間延びしたあたしの問いかけに、きっぱりとした声であの子が返す。隠れ鬼をしているわけではもちろんない。
「終わるまで待ってくれるって約束でしょう」
そう言ってあの子があたしの髪をかき混ぜる。心地よさに目を閉じた間に手は離れ、また画面に向かって文字を打ち始めていた。
今夜は外に夕飯を食べに行く約束をしていたのだ。それなのに、やれ出かけようという段になってあの子に急な用事が入り、未だ家から出れずにいた。
「わかってるから、こうして待ってるんじゃないか」
先約を反故にされかけ、へそを曲げかけたわけだが『待ってくれたなら埋め合わせはする』とあの子が言うから、渋々こうして留まっていた。待つだけの時間は退屈で、畳に転がる。意趣返しとばかりにあたしは、あの子の鞄を枕代わりに頭に敷いた。
斜め下から覗いた顔は険しくて、どうやら今しばらくかかりそうだ。ぱちりぱちりと規則的な音が眠気を誘う。不貞腐れた気分のままに瞼を下ろした。
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