Day21「朝顔」#文披31題

 夢を見る。手足に絡みつく細い蔦。ひどくゆっくりと、しかし確実にこちらの動きを蝕んでいく。それなのに毟ることすら億劫でなすがままにさせてしまう。

 これは葛だろうか。見下ろしたその先には赤紫の丸い花が咲いていた。ああ、もう日が昇る頃なのだ。


「――できましたよ。ほら起きてください」


 揺すられる感触にいやに重たい瞼を上げる。米の甘い匂いと、あたしの肩に乗ったあの子の手があたたかい。


「船漕いでましたよ。珍しい」


 手際よく膳を並べながらあの子が笑う。布団からは出ていたのに、胡座のままで微睡んでしまっていたらしい。


「いやなに、うっかり釣瓶にされかけたらしい」


 まだぼやけた頭を起こそうと眉間を揉む。あの子が座った頃合いを見て、椀から味噌汁を啜った。わかめ、豆腐に玉ねぎ、南瓜。いつもより一品具が多い。


「ああ、今朝も美味しいよ」


 幸せを噛み締めつつはたと気づく。うっかりあのまま取り込まれていたら、あの子はよそにもらい水する羽目になり得たのだろうか。考えただけでぞっとしない。こんなに可愛い連れ合いを、よそになぞやってなるものか。

 あの蔦、次があったら引き千切らねばと胸の内でそっと誓った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る