Day20「甘くない」#文披31題

 パソコンに向かいながら小腹を満たそうと机の上を手で弄る。しかし思った箱に指が触れることはなく、おかしいと思い顔を上がると目当ての箱は彼の手のなかに収まっていた。

 あ、と俺が止める間もなく彼は包み紙を破り中身を頬張る。


「……なにごれ苦い」

「勝手に人の物を食べるからですよ」


 眉間に深い皺を寄せ、舌を見せながら彼が言う。案の定な反応に思わず苦笑いがこぼれた。箱には96パーセントと書いてあったのだが、やはり意味は知らなかったらしい。


「そういう種類のチョコレートです。ほら」


 残りを寄越せと出した俺の手に、紙箱ではなく彼の手が乗る。あれよあれよと言うより早く引き寄せられて、顔が近づく。触れた口元の隙間から、無遠慮に割り込んだ舌が絡む。生暖かい熱とともに、じりとほろ苦いカカオの味が広がった。


「うん。口直しには丁度いい」


 離した唇をひと舐めして、満足そうに彼が呟く。それに絆されてやるのも業腹で、返事代わりにチョップを見舞った。

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