Day16「レプリカ」#文披31題
掌を蛍光灯に掲げて、彼は今日何度目かもわからないうっとりとしたため息を吐く。それを見た俺はといえば、ご満悦な彼とは反比例するように、ついにげんなりとしてきてこれまたため息を吐いた。
「いい加減外してくださいよ、それ……。恥ずかしいから」
「やだよ。せっかくお前さんがくれたのに」
俺の視線から庇うように彼は右手で左手を覆う。より正確に言うなら左手の薬指、そこにはまった小さな指輪を、だ。
ちゃんとした宝飾品の類ではもちろんない。帰り道に露店で見かけて気まぐれに土産にした玩具のようなレプリカである。
「もっとちゃんとしたの贈りますから」
見るからにちゃちなプラスチックをここまで後生大事にされると気恥ずかしい。小さな女の子が喜びそうなそれを、このままでは近所の人にまで見せびらかし始めそうで俺の内心は穏やかではなかった。
「あたしはコレが気に入ったの」
そうやってさも愛おしげな顔をされては取り上げることもできない。軽率な行動を後悔しつつ、飴の指輪にしなくてよかったと、俺はまた一つため息を落とした。
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