Day14「お下がり」#文披31題
近所で夏祭りがあると話題に出したら、浴衣がいると断言され、あれよあれよという間に彼の部屋へと連れ込まれた。いつ来ても乱雑に物が溢れるそのなかで当の家主は押し入れに頭を突っ込んでいる。
もちろん浴衣なんて持っていない俺に自分のものを着せたいのだという。
「あったあった、これだ。どうだい、似合いそうだろう」
その両手に広げられてのは深い藍色に縞の入ったものだった。派手好きな彼ことだからどんなものが飛び出すかと覚悟していたこともあり、胸を撫で下ろす。
「ほら、いいじゃないか」
うながされるままにシャツの上から布地を羽織る。さらりと固い肌触りが心地いい。こうして袖を通してみると、着方なんてさっぱりわかっていないせいもあってか、随分丈が長く感じる。
ふわりと立ち上った彼の香りに包まれ何となしに面映い。
「夜分に歩き回るなら虫除け用にも丁度よかろうよ」
意味を取りかねた俺に答えないまま、満足そうに彼が笑う。そのままついと伸びたその掌が虫を払うように空を叩く。耳元でぎゃっ、と小さな悲鳴が上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます