Day12「門番」#文披31題

 何となしにふと目が覚めた夜半過ぎ。寝る時には隣にあった熱が今はなく、やけに広く感じる布団に首を捻りつつ、喉の渇きに床を立つ。今と台所の仕切りとを開けると彼が換気扇の下で煙草を吹かしていた。


「ありゃ、バレちゃった」

「駄目ですよ。匂いがつくと後から色々面倒なんですからね……」


 小言を言いつつ蛇口を捻って水を注ぐ。喉に流した水が生温い。不意に、かつんかつんと音が鳴った。それはまるで固い何かを叩く音。

 そう例えるなら玄関扉を爪か何かでで叩くような。


『……だい。……ち……だい。……頂……い』

「起き出すにはまだ早すぎる。明日の朝も早いんだろう?」


 玄関と俺を遮るように一歩前に出た彼が言う。掻き消された煙草の火が、えらく大きくじいっと聞こえた。


「あたしもすぐ戻るから、お前さんも戻ってお休み」


 追い立てられるように背を押されて、もと来た畳を足で踏む。気にはなれど有無を言わさぬ彼の笑顔とどろりと重い眠気に阻まれ倒れ込むように布団に倒れた。

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