Day11「飴色」#文披31題

 多めに刻んだ溢れんばかりの玉ねぎを油をひいた鍋に入れる。最初は中火で炒めていき、水分がとんできたら少し火を弱めに。あまりかき混ぜ過ぎては色づかないので、多少の焦げは気にせずにおく。

 美味しそうな飴色になったあたりでほっと一息。最初の頃は飴を通り越して炭にしてはあの子を呆れさせたっけとひとり懐かしむ。

 肉、人参、芋を加えて更に炒め、たっぷりの水で煮込んでいく。野菜が柔らかくなったところで一度火を止めルーを溶かす。ふわりと腹の虫をくすぐる匂いが広がった。


「ただいま。わあ、カレーですね。美味しそう」

「おかえり。遅くなるって言ってたから、勝手にあがって作っておいたよ」


 換気扇から漏れた匂いで察していたのか、帰宅した家主の顔が綻ぶ。冷蔵庫の野菜を適当に入れてあたしが雑に作っても、そこそこ美味しく仕上がるのでライスカレーは素晴らしい。


「もう食べられるよ。手を洗ったら、ご飯よそってくれるかい」


 うん、と答えた背後のあの子が一瞬置いてあっと呟く。何事だろうと振り向くと視線の先には水に沈んだ生米の姿。

 やれやれ、なかなかどうして格好がつかない。

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