Day9「肯定」#文披31題

 誰しもどうしようもなく駄目になる日というのはあるものだ。そしてそれは、どうやら人に限ったことでもないらしい。


「瀬多さん、そろそろ夕飯の支度するのでいい加減離れて」

「やだ」


 間髪入れずに拒否された挙句、俺の腰に胸にと回った腕に痛いほどの力がこもる。苦しいとタップで示せばすぐに力は緩んだけれど、蔦のよう絡みたく指が離れる気配はない。

 昼過ぎにふらりと訪れて来た彼は今日はずっとこの調子で俺の背に張り付いていらっしゃる。


「あたしのこと好き?」


 普段は飄々としている癖に、時折彼はこうなってしまう。側から見れば面倒くさかろうが危うかろうが、俺からすればいっそ可愛いくらいである。それも含めて、俺が好きなこのヒトなのだ。


「もちろん。大好きです」


 いつもよりごわついた彼の頭を撫でる。腕の力がまた増した。



「アナタがいいの」

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