Day6「アバター」 #文披31題

「んー、眉の位置が少し高い。もう少し下げとくれ」


 何度目かもはやわからなくなってきたオーダーに従いコントローラーを操作する。新しく買ったゲームを始めたところで現れた彼が興味を示し、なら一緒にやってみようかと始めたのが間違いだった。

 どうせなら俺の姿にしたいと言い出した彼の言葉に、自分似の姿に抵抗がないといえば嘘になるが、こういうものに食いつくのは珍しいこともありいいよと言ったのが運の尽き。

 まさかこんなに拘られるとは予想しろというのが無理があるだろう。


「目が離れ過ぎてる。お前さんの眉間はもっと狭いよ」

「……いい加減いいにして始めませんか」


 正直なところ、少々うんざりし始めている。そろそろ本編を始めたい。


「もうちょっと!もうちょっとだけだから!」


 これまた何度目になるかわからない言葉を宣って、彼が画面と俺の顔とを見比べる。俺の内心を知ってか知らずか、あまりに熱心なその視線に呆れを通り越して笑いが漏れた。


 やれやれ、今日はもうこれだけで終わってしまいそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る