Day5「蛍」 #文披31題

 一足跳びに駆け上がった階段が下駄に踏まれてかんからと鳴る。自分の部屋を通り過ぎて左隣のあの子の部屋へ。そこまで来てからはたと両手が塞がっていることなら気づき、肘を伸ばして呼び鈴を鳴らした。


「はい、どちら様……あれ?どうしたんですか」


 すぐに開いた玄関で驚いたような顔のあの子に迎えられる。普段なら戸を叩くなり勝手に入るなりするから、あたしとは思わなかったのだろう。


「灯り消して暗くしておくれ」


 中に入って急かすように言う。怪訝そうにしつつもあの子が言われて通りにする。それを見計らって手のひらを離して囲っていたそいつを放した。

 ふわりふわり、そろりそろり。

 探るようにゆったりと薄暗い室内に黄緑色の光が瞬く。それを追うようにあの子の頭も揺れていた。


「近くの用水路で見かけてね。思わず連れて帰っちゃったよ」


 淡い光があの子の前を横切って飛ぶ。光を映すその瞳はいつもより幾分幼なげに見えた。思った以上に良い反応に胸の内が温まる。

 今度は一緒に夕暮れの河辺を散歩にでも誘ってみようか。

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