Day2「透明」 #文披31題

 明かりがついた我が家に、おやと思いつつ玄関を開けたが中には誰も見当たらない。その割につけたままのテレビと枕にしたのか半分になった座布団。飲みかけのグラスは汗をかいていて部屋には気配が満ちている。


 出がけに些細な言い争いをしたから今日は来ないかと思っていたのに。


 ふと机の上には見慣れない付箋が俺の目につく。癖のある字で大きな付箋に並んでいたのはたった三文字。


「いるなら出てきてくださいよ」


 探すまでもなく狭い1Kだ。視線を感じた空へ手を伸ばすと見えない何かが指先をかすめた。


「やっぱりいるんじゃないですか。朝のことは」

「――今朝はごめんね」


 あれよという間にそのまま手を取られ抱きしめられた。嗅ぎ慣れた香りに顔を寄せようと思ったのだが、生憎未だその姿は見えない。不自然に腕を浮かした今の自分は、傍から見ればさぞシュールなことだろう。


「わかりましたから。ほら、いい加減お顔を見せて」


 俺だって早くごめんが言いたいのだから。

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