『君と営む日々徒然』 #文披31題

幸崎

Day1「傘」 #文披31題

 玄関の物音を聞きつけて迎えに出ると、それはまた見事な濡れ鼠がいた。髪どころか服の裾からもぽたりぽたりと雫が垂れている。


「すみません、タオル取ってもらえませんか」


 そのままでは中に上がることもできそうにない様子にあたしは慌てて戸棚から布巾を重ねて持ってきた。そのうちの一枚を床に敷いてあの子はようやく荷物を下ろす。何とか濡らすまいと庇ったのか鞄の方がまだ無事なようだ。


「おかえり。どうしたのさ、傘は持っていたろうに」

「ただいま。急に風まで強くなって……」


 扉に立てかけられたそれは、なるほどどうして、ひしゃげて骨が歪んでいた。よくよく耳をすませば表から雨風が戸を叩く音がする。


「使い物にならないから閉じて走りました」


 張り付いたシャツに苦戦する手から、重くなった上着を受け取る。

 ちらと触れた指先が冷たい。


「そりゃ災難だったね。風邪ひかないうちに先にお風呂にしときなさいな」


 後始末は引き受けて、その背を風呂場に追い立てた。

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