第19話 凛々しき乙女に背中を押される薔薇
シャルルはここにいたんだよ…ぬいぐるみに隠れるようにしてな…その時に大勢のお客様達がシャルルを囲んでいたよ…日本語で声をかけてな…でも、この子は日本語を理解出来ていなかった…だから…君から教えてもらった…あの懐かしい子守唄を聴かせていたんだよ…
(シャルルは俺の頭の上で、残されているクマのぬいぐるみを見つめていた。俺とセシリアの会話は日本語で執り行われていた為、息子には理解出来ていなかった様だ。そしてセシリアはシャルルを支えながら、俺の言葉を聞いて、息子に語りかけた)
…シャルル…あのクマさんが欲しいのかしら?…あっ…
(そこでセシリアは何かを思い出したのか、ポケットから綺麗に折り畳まれた一万円札を取り出して来た。俺はこの時、彼女が持つ一万円札がまさか、梨華さんから貸し与えられている物とは知らなかった。そしてシャルルは、母親の答えに元気に頷いて来た)
あのクマさん、大事にするんだぞ…
(そして俺達は、セルフレジに進んで会計をしていた時にセシリア、彼女は一万円札の事を告げて来た。それと同時に、遠くから軽やかな足音が聞えて来た)
実はこのお金…あなたの会社の橘梨華さんから頂いた物なの…
(そして俺とセシリアは足音のする方を見ると、梨華さんと共にクリスさんが笑みを浮かべて、俺達の方に近寄って来ていた。クリスさんを見たセシリアは、俺に寄り添いながら軽く会釈をしていた)
細野君、無事に再会出来たようだね…彼女と…そして…君達の宝物にね…セシリア・ローズ君…君の父上は、もう暫くこのデパートには来ない…。存分に彼との時間を満喫しなさい…。私も時々は一人の女に戻るとするかな…。バトラー…、それではまた、貴方ともいずれ会うと思う…その際は、今の私ではないと思うが、宜しく頼むよ!!
(俺達に笑みを浮かべ終えると、彼女は小さな男の子の手を握ったまま俺達に背を向けて、玩具コーナーを後にして行った。そして、クリスさんは俺とセシリア、そしてシャルルを連れて、上層階のレストランに向かい始めた)
ふふっ…麗しきレディーのお力と言いますかね…少しばかり…このデパートを貸し切りと致したのです…これでセシリア様、貴女様の秘密が漏洩する心配は御座いません…レディーの仰られた通り…御存分に夫婦として…そして…母親としてのお時間を満喫なさって下さいませ…
(クリスさんは俺達三人の姿を見た後に、薄っすらと涙を浮かべていた。そして彼は俺達三人に深々と頭を下げて、レストランの調理室に向かっていった。そして暫くすると、彼女とシャルルの口に合った料理が運ばれて来た)
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