第12話 迷子の容姿に見る遠い日の思い出
(その日、俺は午前中から外回りをしていた。そして新規のお客様獲得の為に、有名デパートに数日前にアポイントメントを取っていた。俺は担当者の男性と意気投合して、見事に契約成立まで漕ぎ着けた。そして、デパートが急に騒がしくなったのは、俺が帰り始めようとした時だった)
それでは佐伯さん、本日は誠にありがとうございました…
(担当者の男性は、とても俺の言葉にかまっている暇などないといった風で、足早に消えてしまった。そして俺も会社に連絡を入れて帰ろうとした時だった。遠くで佐伯さんの怒鳴り声が聞こえてしまった)
もしも…あの要人の身に何かあれば……当社の株は大打撃を追う事になるのだぞ!!お前達も協力して探さないか!!
(佐伯さんの語り口調からして、デパートに要人がお忍びで訪れて来ていると把握できた。きっと、その要人の身に何かあったのだろうと、佐伯さんの語り口調から推測出来た。しかし、俺は、セシリアの一件から要人と深い関わりを持つ事を遠ざけていた)
梨華さんを誘って飲みにでも行こうかな…ん?なんだ……人だかりが出来ているな…
(二階から一階に降りて行こうとした時だった。日本語で語りかけても通じないみたいよ、という言葉で、海外の子が迷子にでもなったのかと思っていた。その海外の子の容姿を見るまでは…)
え!?…子供?……
(子供の容姿が人混みの中から一瞬見えた。俺は、かつてプロポーズまでした女性の事を想い返していた。その子の容姿がセシリアに似ていたからだ。その為、もしかしてフランス語が通じるかもと思い、フランス語で語りかけて見た)
君、どうしたのかな…ママとパパは?はぐれちゃったのかな?…おいで…?怖くないから…。ここにいる人達は皆、君のことを心配している人達、味方だよ…
(すると、小さな男の子は恐る恐る俺の方に手を伸ばして来てくれた。そして俺はその子の手をしっかり掴み取ると、胸元に抱きかかえてあやし始める。生まれてこの方、子供をあやした事もなかった。でも、この子は安心した様に、俺の腕の中で眠り始めていた)
皆様、この子は俺が責任を持って親御様の元に送り届けますので、ご安心下さい…
(子供の背中を優しく撫でながら、買い物途中のお客様達に丁寧に語りかけると、皆様、安心した様に買い物に戻り始めた。そして俺は、人混みが少ない非常口傍の椅子に男の子を下ろすと、俺の膝の上に乗せて、髪を優しく撫でながら)
…何で…こんな時に…あの時の事を思い出すんだろうな…セシリア…
(それは、俺と彼女が図書館で何回か会った時に、俺が課題の一文に書かれているフランス語で悩んでいた時の事だった。それが蘇って来た)
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