第15話 怒り狂う異種族に対話を申し込むのは間違いなんだろうか?
真夏の陽炎のように視界が揺れる中、私はインパルスドラゴンに狙いを定め、魔力の弾丸を打ち出しました。
「【リア・ゼロ】!」
小さな光がインパルスドラゴンの翼膜を射抜きます。
手応えというモノはありませんが、インパルスドラゴンの注意を引くには十分過ぎました。
私の職種(ロール)は魔術師。
職種(ロール)とか、たいそうに言ってる割に身体能力は常人のそれとは変わりません。
使う魔法も初級魔法がメインで、ギリギリ中級魔法を撃てるかどうか。
客観的に見ても、主観的に見ても詰みゲー。
ヤバい。めっっっっっちゃ逃げたいです。
教師のバカヤロー。アホンダラー。人権しんがーい。立ち上がれ、ろーどーしゃー。
恨みを頭の中で巡らせ、私は逃亡を図りました。
逃げ道は?
身勝手な希望的観測も空しく、後ろを振り返るも四方八方燃えており、逃げ道はおろか、獣道すらない状態です。
クソドカゲはその身を炎で照らし、空から私を虫を見るような目で見つめてきました。
捕食者の目。蹂躙者の目。王者の目。
その眼差しの前に、私の薄っぺらい決心は薄紙のごとく剥がれていきます。
死にたくない一心に、解る筈のない話し合いを申し込みました。
「その‥...‥話せば分かります?」
「GRAAAAAAAAAAAAR!!!!!!」
一蹴。
翼を羽ばたかせて、風圧を高めていく。
近くに転がっている建物の残骸など、塵のように飛ばされていきます。
私は飛ばされまいと、必死にトロッコ用の線路にしがみつきました。
「ま、待ってください!口は対話の為にあるんです!対話をぉぉぉ!」
まだ諦めきれなかった私は必死に話しかけました。でも逆効果、クソドカゲを興奮させる発火材になりました。
インパルスドラゴンの口から火炎が漏れました。
「GROOOOOOOO!!!!」
クソドカゲは、成人男性ほどの大きさの豪火球を吐き散らかし始めました。
成る程!お口はその為にあったんですね!
命の危機が迫り、頭のネジが一・二本外れた私はしょうもない事を考えながら、命ガラガラ鉱山の中へと避難しました。
鉱山の中でトロッコの後ろに隠れ、涙目で杖を握りしめる私。
「勝てないですよ‥...‥おうち帰りたい‥...‥」
有翼の魔獣は翼膜や羽根の付け根を狙うと、比較的倒しやすくなると聞きましたが‥...‥
私だと自爆特攻でもしなきゃ、あのクソドカゲには傷一つつけられません。
外から火の粉がここまで舞い込んで来ます。
「G........A.......」
鉱山の外で響くクソドカゲの鳴き声にビクビクしながら、私は戦意喪失に至りました。
・・・
イリスの姉、レイラはイリスをミイラとお姫様の混合物に変え、買い物ついでにコネを辿ろうと学舎ハデシスに寄ったが、なにやら、とても大変な状況になっているみたいだ。
「生徒の命が危ないんでしょう?何ぼーっとしていますの?私の美貌に目を奪われる気持ちは分かりますが、今は本能より生徒の命を優先してくださいませ。」
遠方台と呼ばれる一室で、たくさん設置されたテレビ?みたいなものがノイズを休む事なく鳴らす中、レイラは学舎の教師を言い詰めていた。
「えっ?あ、でも。」
『その‥...‥上層部から転移ポータルが直るまで、ラゲーサには近づくなと‥...‥』
「だから、何だと言いますの?命令が生徒より重いとおっしゃっていますの?」
「そんな事はありません!行きたくも行けない状況なんです!」
転移ポータルってものが俺の予想であってるなら、恐らくラゲーサってのは遠いところにあって、転移ポータルが壊れたから手も足も出ない状況みたいだ。
『転移魔法でも使える人がいてくれればッ‥....‥』
悔やむように、モニター越しの教師が呟いた。
「転移魔法なら、この子が使えますわよ?」
「『え?』」
マジ?
レイラに指名されたイリスは激しく狼狽える。
「わ、わたし‥...‥で、ですか?」
「はい。あなたですわよ?」
再度確認するイリスに、レイラも再度指名した。
『喋った‥...‥使い魔ではなかったのか‥...‥』
「召喚獣ではなかったのか‥...‥」
さっきまでイリスの事を使い魔やらなんやらと勘違いしていた教師の二人組は驚いていた。
この格好だもん‥...‥文句は言えんな‥...‥
ドレスと右腕中心に巻かれた布のフュージョンによって、人間の原始的な恐怖心を煽る見た目になったイリスだ。
勘違いは覚悟の上‥...‥かもしれない。
レイラが教師二人組に聞かれないよう、小声でイリスの耳元に囁いた。
「イリス、家出の時にラゲーサは、訪れた事がありまして?」
イリスも小声で返した。
「あ、あります‥...‥」
あれ?レイラって、こんなに優しいやつだっけ。
出会い頭にスープぶっかけて来た女だぞ?
なにかしらの理由があるのか?
疑問を残したまま、レイラとイリスのやり取りを見守る。
「なら、座標の指定は簡単ですわ。これで安心ですわね。」
『なら、早急にお願いします!情報の入手だけでも良いです!住民達が避難しきってないかも知れないんです!』
「但し、条件がありますの。」
「一体、なにを‥...‥」
「この子の再試験の座学をすこーし、弄って頂けますか?」
「再試験?‥...‥まさか、その方は‥...‥」
『死の王女‥...‥イリス?』
なに、その物騒で厨二チックな二つ名。
イリス、何かやらかした?
「そう、この子がイリス。明日、再試験を受ける私の妹ですわ。」
「‥...‥分かりました‥...‥条件を呑みます。この事はくれぐれも他の教師に話さないように‥お願いします...‥」
「さ、イリス。殺してきてくださいませ。」
ナニヲ?待って、話しについて行けない。
後、スッゲー不安。
「わ、分かりました!【スパティアナ・ワープ】」
イリスの足下に魔法陣が浮かび上がる。
『イリス、まっt』
俺の声は途中で切れ、気が付いたら周りが燃えてるところに来ていた。
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