1-33. ただのエルフと思っていたらエルフの姫だった(3/5)
その後、3人は湖からあがる。
ナジュミネとリゥパは着替えて、身なりを整えて再度ムツキの前で互いに見合う。この頃には、アルやほかの妖精たちも近くに来ていた。
「リゥパ。状況的にリゥパから攻撃を仕掛けたようだけど間違いないか?」
リゥパは緑の長袖シャツに薄茶色の長ズボン、濃い茶色のブーツ、革の胸当てを身に着けており、いわゆるエルフの標準装備に加えて、エルフ族の姫である証の琥珀色の腕輪を身に着けていた。
「間違いないわ。だって、魔人族がこんなところにいたら、排除しないといけないじゃない?」
リゥパは悪びれる様子もなく、淡々と自分から見た事実を話している。彼女たち、エルフは戦える妖精の1種であり、樹海に生きる一員として、侵入者の排除と世界樹の防衛を昔から担ってきた。
つまり、彼女は自身の役割を果たしただけと伝えている。
「ん? ナジュ……ナジュミネのことはエルフに伝えているはずだが?」
ムツキがそう話した時、リゥパはあまり驚いた様子もなかった。
「あらあら、そうなの? いつ?」
「今朝だ」
「左様です。マイロードの仰る通り、私からエルフの里へ朝一番に連絡を入れております」
リゥパはムツキとアルのやり取りを聞いた後、笑顔のままムツキをしっかりと見据える。
「アル様には悪いけれど、だったら私は知らないわね。そろそろムッちゃんが来ると思って、朝から一人で散歩していたもの」
ナジュミネはこのやり取りに何かが引っ掛かっていた。しかし、具体的には言い表すことができないので、終始黙るしかなかった。
「伝達ミスでナジュを殺されるのは勘弁願いたいな」
「それはうちの落ち度ね、ごめんなさい。ところで、ナジュミネって言うのね、その子」
リゥパは個人のミスとしてではななく、伝達ミスという種族全体の問題として謝った。ナジュミネはやはり少し引っ掛かる。
「お互いの紹介をしなきゃな。こっちがナジュ。俺の妻だ」
「……改めてはじめまして、ナジュミネだ。ナジュミネと呼んでほしい。元炎の魔王だが、縁があって旦那様の下で暮らしている。この度は、エルフの姫君にお会いできて光栄の一言に尽きる」
ナジュミネは恭しく礼をする。一方のリゥパは、ナジュミネの顔と胸と尻をじっと凝視している。
「こっちがリゥパだ。エルフ族の長の娘だから、まあ、お姫様みたいなものだ」
「はじめまして、リゥパよ。私もリゥパでいいわ。ムッちゃんが紹介してくれたように、この樹海に住むエルフの長の娘で、ムッちゃんの第二の妻よ」
「え?」
「え?」
リゥパは臆面もなく堂々たる佇まいでそう言ってのける。あまりにも当然のように言い放ったので、ムツキとナジュミネが素っ頓狂な声を上げたくらいだ。
「旦那様、どういうことだ? 妾が2番目ではなかったのか? 3番目に格下げか?」
魔人族は多夫多妻のため、伴侶が何人いようと構わない。ただし、順番が非常に重要であり、番号が小さいほど伴侶としての格が高い。だからこそ、何番目でもいいからと言われてたくさんの伴侶を持つ者と、そうでない者とに分かれる。
ちなみに、全員1番目と訳の分からないことを言って、伴侶全員から袋叩きに合った魔人族は彼らの歴史を紐解けば1人2人程度ではない。
「いや、俺も分からん。本当に」
ムツキがそう言うと、リゥパは膝から崩れ落ち、すすり泣くような仕草をし始める。
「ムッちゃん、ひどい! と言っても、ムッちゃんは知らないかもね。以前、ユウ様に直談判をした際に、いいよ、と言ってもらっているだけだから。でも、ムッちゃん、私と貴方が婚約する予定にあるのは分かっているわよね?」
先ほどのは演技だったようで、リゥパが艶めかしい笑みを浮かべつつ、ムツキにそう告げる。
「む」
ナジュミネは自身の抱いているリゥパへの引っ掛かりが何となく理解できてきた。
「それは……樹海の管理者としてエルフ族に認めてもらう条件の1つだったからな。だが、少し違うぞ。エルフのしきたりで俺が21歳を超えないと婚約ができないし、俺が25を超えないと結婚できないんだろ? まだ婚約も結婚もしていない以上は妻を名乗ることは許されないだろ。やっぱり、第二の妻はナジュだ」
ムツキの毅然とした態度にナジュミネは嬉しくなり頬を赤らめる。リゥパは面白くなさそうな顔を隠さずに、今にも舌打ちをしそうな目つきをしている。
「まあ、そうね……、そうなるわよね」
「そういうことか」
ナジュミネはここで理解した。
リゥパが実はナジュミネのことを今朝よりも前に知っており、彼女が今朝の情報は聞かなかった事実を得た上で、樹海に入り込んできた魔人族として処理をしようとしているということに。
思ったよりもこのエルフの姫は腹黒いようだ。
「ん? ナジュ、どうした?」
「いや、なんでも……さっきの旦那様はカッコよかったぞ」
ナジュミネはリゥパを簡単に許そうとは思っていない。だが、気持ちが分からないわけでもないことや、あくまで自分の憶測に過ぎないことから、ムツキに何も告げなかった。
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