1-32. ただのエルフと思っていたらエルフの姫だった(2/5)
「ナジュ、大丈夫か?」
ナジュミネを抱きしめ、優しい声を掛けたのはムツキである。彼は矢の雨の中をものともせずにナジュミネの所まで駆け寄り彼女を覆うように抱きしめた。
ムツキのパッシブスキル 遠距離攻撃無効はエルフの魔法の矢さえも意味を持たない。
「ありがとう。だが、炎の魔王がこんなことでは情けないな」
ナジュミネは目に涙を少し浮かべながら、泣きたくないのか、辛そうに微笑む。
「そんなことない。森に被害を出さないために炎魔法も攻撃魔法も出さなかったんだ。相手を傷つけようともせず、防戦の中、よくがんばってくれたよ。ありがとう」
ムツキはナジュミネを抱きしめたまま彼女の頭を優しく撫でて、さらに彼女にお礼を伝えた。彼には着脱不可の呪いがあるため、自身の服を脱いで着せてあげることができないので、抱き寄せて身体を見ないようにすることが精一杯できる範囲だった。
「……そう軽々しく優しくするでない。ほんの少し、ほんの少しだけ怖かっただけだ!」
ナジュミネは急に優しい言葉を掛けられてしまい、思わず涙が出そうになって堪えるのに必死になった。ムツキは再び頭を優しく撫でる。
「強がっているナジュはかわいいな」
「っ! 強がってなど……ない……」
ムツキがナジュミネの目を見つめるために少し彼女から身体を離す。
「ムッちゃーん!」
その瞬間に、エルフが叫びながら、もの凄い勢いでムツキに突進した。彼の身体はナジュミネから離れて、そのエルフごと湖の深い方へと流されていく。
「おわっ!【フロート】。……んぐっ」
エルフはフロートで少し浮いているムツキにしがみついて、彼をボートのようにしたまま、そっと口づけを交わした。やがて、それは舌を絡めるような激しいものへと移る。
「なっ」
ナジュミネは驚きに固まった表情と声にならない声を上げる。エルフが彼女の方を見て、ニヤリと笑みを浮かべたように見える。
そして、エルフは舌の動きを止めて、口と口を繋げる細い唾液の線を月明かりに照らしながら、ムツキから顔を離す。
彼女の潤んだ淡い緑色の瞳は、月明かりの逆光の中でも妖艶に光って見える。
「ムッちゃん。元気?」
エルフはムツキの胸板に顔を埋めながら、裸のままぎゅっと彼を抱きしめる。
「リゥパか」
ムツキはエルフの正体を知っていたようで、彼女をリゥパと呼んだ。
「よく分かったわね、よしよし、いい子ね。」
「そりゃ、【ミリオンアロー】はエルフの長の系譜に伝わる固有魔法だからな……」
「やっぱり、私とムッちゃんは運命のしめ縄で結ばれているわね」
「太すぎるわ! それを言うなら、運命の撚り糸だろ!」
リゥパの唐突なボケに、ムツキは慣れたようにツッコミを入れる。
「んー、そうとも言うわね」
リゥパは少し考えたような表情を見せた後に、何事もなかったかのように朗らかな笑顔でムツキを見る。
「そうとしか言わないだろ……」
「そんな意地悪を言う口はこうよ」
ムツキの口は再びリゥパの口で塞がれる。彼に抵抗する素振りは見られず、なされるがままになっているように見える。
「ななっ」
ナジュミネは言葉が見つからないようで、「な」しか言えていない。
「さっきも聞いたけど、元気?」
リゥパはムツキの頭を優しく撫でる。その手つきは頭を撫でるには、やけに艶めかしい。
「元気だよ。リゥパは?」
「私も元気よ。ムッちゃんに会えて、もっと元気になったわ。ムッちゃんも私のキスで元気になったなら、今夜こそどうかしら?」
「やけに積極的だな? って、リゥパも裸なのか……。目のやり場に困る」
「んふふ」
「なななっ!」
ナジュミネの声にならない声が静かな湖の中でひと際響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます