1-Ex3. 猫吸いだけだと思ったら夜のそういう雰囲気になった
ムツキの部屋。大きめのベッドの上に、ムツキ、ナジュ、そして、仔猫が数匹いた。
ナジュは衣服を用意していなかったので、ラベンダー色をしたムツキの真新しい薄手のパジャマを着ている。彼女には少しダボっとしているが、自然と萌え袖になっていて、普段のかっこいい雰囲気から可愛いらしい雰囲気に変わっている。
また、髪は左側に寄せたサイドテールでまとめており、普段のロングヘアーとも雰囲気が大きく変わる。
そして、ムツキもまたラベンダー色のパジャマを着ているので、ペアパジャマのようになっていて、彼女の頬が若干赤くなっている。
「猫吸い?」
ナジュは初めて聞くその言葉に首を傾げた。
「そう! 猫吸いっていうのは、決して言葉で表現しきれるものではないけども、強いて言えば、命の輝きというか命の尊さを感じられるんだ」
ムツキは興奮気味に熱く語り始める。
「……すまないが、まだ妾には理解できない」
「まあ、まずやってみればわかる。その幸福感に意識が飛ぶかもしれないが」
ムツキはナジュの困った顔を初体験への不安げな顔と感じ取ったのか、両肩を優しく手で押さえながら、真っ直ぐな目で彼女を見つめる。
「旦那様」
ナジュもまた真っ直ぐな目でムツキを見つめる。
思わずムツキはドキっとする。
「ど、どうした?」
「モフモフのことになると、旦那様がなんか怖い」
ナジュはその言葉と裏腹に満面の笑みである。ムツキが今までで一番自然で綺麗じゃないかと思うくらいの素直な笑顔をしている。しかし、セリフがセリフだけに一段とキツさが残った。
「いやいやいや、そんな綺麗な笑顔で言われても。え、なんか、ごめん……」
ムツキは心に矢が刺さった。確実に大きめの矢がブスリと刺さっている。
「いや、こちらこそ、すまぬ。せっかく説明してくれていたのに」
「大丈夫だ。まあ、それはともかくね、少しだけでもいいからさ。ほんの少しでもいいから。猫のお腹に顔をうずめてみて」
微妙に使いどころが違うセリフも交じりつつ、ムツキは続けて熱意とともに口に出す。
「旦那様の頼みとあれば断れないな。こ、こうか?」
お腹を見せて待機中のアメリカンショートヘアにナジュは顔をうずめた。
「どうだ?」
ナジュはムツキの声が遠のく感じとともに、仄かなミルクの香りと、ひなたぼっこした後のような太陽の香り、そして、微かに石鹸の香りがしていた。
「なんというか。なんとなく、旦那様の言っていることが分かった気がするな」
ナジュは少しはにかむような笑顔をムツキに見せた。ムツキは先ほどの笑顔からドキドキしっ放しである。
「そ、そうだろ。でも、猫吸いはしすぎると猫へのストレスにもなるし、俺たちに思わぬ病気がうつることもあるから、本当に特別な時に特別な手順を経た後にしかしない。それだけ、ナジュもモフモフを愛してほしいと思っている!」
ムツキが真剣な眼差しでナジュを見ると、ナジュは髪の色と同じくらいになるのではないかと思うくらいにだんだんと顔が紅潮していった。
「えっと、旦那様にこれからもいろいろと教えてほしい……な」
ナジュの声色と口調が少しずつ優しくなる。
「え、わ、分かった」
ムツキも顔を徐々に赤らめつつあり、それを見たケットが両手で拍手をするようにポフポフした。
「さて、みんニャ、そろそろ部屋から出るニャ」
「ニャ?」
「ワン?」
「ブゥ」
ムツキと一緒に寝たい妖精たちは少し不満げである。
しかし、ケットは首を横に振る。
「仕方ニャいニャ。今から交尾ニャ」
ど真ん中のド直球である。妖精に忖度などない。
「ぶっ。ケ、ケット、交尾って言わないでくれ」
「っ……」
ムツキとナジュの顔が最高潮、いや、最紅潮になる。二人は耳まで真っ赤にして、お互いにお互いを見やる。
「交尾は交尾ですニャ。いくらご主人でも嘘は良くニャいニャ。ごゆっくりニャー」
ケットはそう言って、妖精たちと部屋の外へ出ていった。
しばらく沈黙が続く。
「……旦那様」
やがて、ユウの言葉を思い出し、意を決したナジュがムツキに話しかける。
「ど、どどど、どうした?」
「あの……その……優しく……してくださいね? その、私、初めてですから」
恥ずかし気な感じと俯き加減に上目遣い。
ユウ直伝の対ムツキの必殺技だった。
「うっ。いや、今日はそんなつもりで部屋には、いや、でも、あー、そんな綺麗な笑顔で、しかも、口調も変わったら……ぐっ! ユウの差し金だな。そんなものに俺は、屈しない! ん!」
すかさず、ナジュがムツキに唇を近づけ、唇どうしが軽く触れる。触れた瞬間に気恥ずかしさからか、彼女はすぐに顔を離す。
「ん……初めての女の子に、ここまでさせても?」
ユウ直伝の対ムツキの必殺技その2だった。ちなみに必殺技はたくさん伝授されている。
「……屈する!」
ムツキは屈した。その後、彼は部屋の明かりを消して、ナジュを抱き寄せて、ベッドに潜り込む。
「きゃっ」
ナジュは普段出さないような声を小さく上げる。
「ここまでそっちから誘ってきたんだ。覚悟してもらうぞ」
そこからの二人は長い時間お楽しみだった。
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