1-Ex2. 最近あまり崇められてないと思ったらとっくに死んだ扱いだった

 ムツキはナジュミネを連れて自室に向かっていった。彼曰く、いいことを伝授してくれるとのことだ。


 しかし、ユウは分かっている。その場合はおそらくモフモフ関係である。そのため、ユウはナジュミネに軽くウィンクをして合図をした。


 そう、モフモフをイチャイチャに変えるどうかはナジュミネにかかっているのだった。



「プロみんは何でも知っているね」


「はっはっは。神様に言われるほどは知らんよ。だが、視点や見方が変われば、新鮮であることは間違いないじゃろうな」


 ユウとプロミネンスはまだダイニングのテーブルで話し込んでいた。彼は借り物のパジャマを羽織って、まだ酒をチビチビと飲んでいてご機嫌だった。彼女はいつものフリフリフリルのパジャマでかわいくなってご機嫌だった。


 そして、話題はいよいよユウのことになる。


「そういえば、私は亡くなった創世神だったよね? 魔人族や人族の神話はどうなっているの?」


 プロミネンスは少し顔に緊張感を持たせて、虚空を見つめながら口を開く。


「そうじゃな。まあ、わしの知る限りの話じゃが、創世神ユースアウィス様は唯一神であり、まずはいまの世界をすべて創った。次に、自分に近い4人の存在を生んだ。その名は、魔人を率いる者ディオクミスとアニミダック、人を率いる者レブテメスプとタウガス」


 プロミネンスは物語の語り部としてゆっくりと落ち着いた声色で話し始める。


「懐かしい名前だー。名前にはいろいろと凝ったんだよね。全員、ちょっと性格、というか、性癖がすごかったけど……」


「次に、妖精1匹と竜1匹を生む。妖精王ケット・シー、竜王レヴィア」


 プロミネンスはユウの合いの手が気になるものの、構わずに続ける。


「そういえば、ケトちんはここにいるけど、レヴィアたんにしばらく会ってないなー」


「その後は、先に生み出した4人、妖精王、竜王のコピーとして、人、魔人、妖精、竜、そして、それらの女性型を創り、次にそのほかの動物や魔物を創る」


「あー、たくさん創るの大変だったー。後は、一度に絶滅しないようにそれぞれの種を変化や進化できるようにしたのも調整が大変だった。……違いを生み出した分だけ争いを生み出しちゃったのは誤算だったけどね」


 ユウは神妙な面持ちになる。彼女なりに思うところはあるようだった。


「そして、しばらく、ユースアウィス様による世界運営が続いた後、ある悲劇が起こった。……ディオクミスとタウガスの喧嘩である。発端の詳細は不明じゃが、己が信念に合わないお互いを非難するようになり、魔人族と人族の争いが始まる」


 物語の急転のためか、プロミネンスが一呼吸置いてから力強い声色に変えて話す。


「あー、発端? 巨乳派か、貧乳派かの言い合いから発展したやつだった気がする」


 プロミネンスはコケた。


「……なんじゃと? ちなみに、ディオクミス様はどっち派だったんじゃ?」


「たしか……巨乳派だった気がする」


 プロミネンスはニッコリと笑顔になった。


「そうか、わしもじゃ。魔人族に刻まれた遺伝子じゃろうか」


「えー……、私が作った遺伝子に勝手な遺伝子を刻み込まないでよ」


 ユウはそんなバカなといった表情で文句を言う。


「さらには、アニミダックとレブテメスプも加勢するかのように争いに加担し、魔人族と人族の全面戦争になる」


「あー、あれね。熟女派か、ロリ派かのいざこざまで巻き込んだやつだね……」


 プロミネンスは椅子から転げ落ちる。


「たはは……。4人とも性癖で全面戦争をするとはな……。ちなみに……」


「アニミダックは熟女派よ」


 プロミネンスはまたもやニッコリと笑顔である。


「わしも……」


 ユウは驚きを隠さない。


「え。プロみんより熟女なんてもういないんじゃないの?」


「そうなんじゃよ……。妻にも先立たれてしまうしのう」


 プロミネンスが遠くを見つめながら、過去を回想した。


 しばらくして意識が戻ってくる。


「さて、脱線しすぎてしまったので、戻すとしよう。そして、全面戦争を止めさせるためにユースアウィス様は自身の胸に眠りの刃を突き立てて、誰も開けられぬ氷塊の中で永遠の眠りにつく」


「うーん」


「まあ、途中の小競り合いなんかの細かい話ところをはしょったが、だいたいのあらましはこうじゃな」


「うーん。胸に眠りの刃……? 眠りの刃……、眠りの刃……、あー、えー? 世界が氷河期に入ることになったから、寒いの苦手だし、イカのぬいぐるみを抱いて眠ったけど……」


 ユウはプロミネンスの目の前に年季の入ったイカのぬいぐるみを突き出した。ピンク色の眠たそうな眼をしたイカは確かに形状がダガーのようにも見える。


「……せめて、もう少しまともな事実はないのかのう」


「史実なんて案外適当だし、美化されやすいからね。そういえば、起きてから会ってないけど、ところで4人はまだいるの?」


 プロミネンスは首を横にも縦にも振らなかった。


「この神話の結末は誰にも分からぬ。しかし、ユースアウィス様が永遠の眠りについた後、彼らもたちまちに争いを止めて同様に眠ったとされておる。殺されなければ死なない4人と言われておるから、まだ眠っておるか、どこかでのんびり生きているのではないかのう」


「そうなんだね。あれ? なんか忘れているような気がする。割と大事な気がする」


「ここは、大丈夫かのう……」


 プロミネンスはナジュミネが変なことに巻き込まれないかだけが心配になった。

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