1-16. 帰らせると思っていたらそうならずに賑やかになった(1/5)

「先ほど、妾は無礼を働いてしまい、大変申し訳ないことをした。お詫びとともに、かわいいモフモフであると訂正したい」


 樹海前のログハウスの外に戻ってから、ナジュミネはケットに非礼を詫びていた。


 彼女は片膝を着いて頭を垂れており、軍服姿もあってか、誓いを立てる騎士のような振る舞いに見える。しかし、セリフにモフモフがあると、今一つ決まらない。


「気にしニャいでほしいニャ。過ぎたことは流すのが一番ニャ。これからが大事ニャ。仲良くしてほしいニャ」


 ケットは2本の尻尾を器用に動かして、ハートマークを描く。


「さて、今後のことじゃが……」


 プロミネンスは、既に次の予定を決めているようだった。ナジュミネもコクリと肯く。


「いやいや、今日は2人とも疲れたろ? 【テレポーテーション】で送ろうか?」


「……よいのか? ナジュミネは既にお主のものじゃぞ? さっさと手元に置かないのか?」


 プロミネンスは驚きの顔を隠さずにムツキにそう話しかけた。ナジュミネも少し驚いているような表情になる。


「それはそうだが、急には難しいんじゃないか? きちんと順を追ってから」


「バカ者! よく考えるんじゃ! ナジュミネのどこでも触り放題なんじゃぞ?! わしなら速攻でベッドに連れ込むぞ!」


 プロミネンスは今日一番の真顔でそう言ってのけた。ムツキはコケそうになる。


「いや、割とまじめなセリフに持っていこうとした俺の言葉を遮ってまで、そのセリフはないだろ。ここではスケベを出し惜しみしてくれよ……」


 ムツキはがっくりとうなだれる。ユウはユウでニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「はっはっは。女性がいるからといってカッコつけようとするからじゃよ」


「ムツキは見た目がカッコいいから、中身もカッコつけたがるんだよね! もちろん、そんなことしなくても、カッコいいんだけどね!」


「ぐっ。と、ともかく、ナジュミネさんだって、魔王ってことは偉いんだろう? 急にいなくなったら困るだろ?」


 ムツキはユウにまで言われては反撃のしようもなく、そうなると元の流れに強引に持っていかざるを得なかった。


「はっはっは。それは安心せい。魔王はただの無期限の任命制。逆に言えば、三日天下もあるわけじゃ。魔王を魔王たらしめるのは、属性とその強さ、そしてカリスマ性じゃよ」


 プロミネンスが一息つけて、再び口を開く。


「血筋すら関係ない。ナジュミネも出自はただの鬼族の村娘じゃったからな。つまり、魔王が不在になれば、またわしが次点の者を魔王に仕立てるわ」


「とはいえ、すぐじゃない方がいいんじゃないか?」


 ムツキの心配などどこ吹く風のプロミネンスは不安そうな表情など微塵も見せない。


「はっはっは。もう既に目星はつけてある。こりゃまたとびっきりの美人じゃよ」


「とは言ってもなあ」


「ムツキ。それはナジュみんの気持ちを聞いた方がいいんじゃない?」


 今一つ踏ん切りの付かないムツキは頭をポリポリとかきながら、言葉を濁している。


 ヤキモキし始めたユウは、彼にナジュミネと話すように促した。


「それもそうだな。ナジュミネさんはどうしたいんだ?」


 ナジュミネは戦いが終わったからか、何か肩の荷が下りたかのような緊張が少しほぐれたような優しい表情を浮かべている。


「わら……私は帰りません。」


「いまさら、一人称や口調を無理に変えなくていいよ。やりやすいように、ね」


 ナジュミネはコクリと縦に肯き、言葉を続ける。


「わかった。妾は帰らない。以前より、伴侶が見つかったら、どこへなりともついていくと決めていた。ムツキ……いや、旦那様。どうか側に置いてほしい」


「っ」


 ナジュミネの少し縋るような表情に、今までと違うギャップを感じて、ムツキはドキっとしてしまう。

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