1-13. 単なる力試しだと思ったら誓約付きの神前試合(ガチ)だった(3/5)

「かわいいな」


「む」


 ムツキの唐突な呟きに、ナジュミネはドキリとする。


「見てみろ。あのモフモフたちの応援、かわいいと思わないか? 一生眺めてられるぞ」


 ムツキが試合そっちのけというよりも自分そっちのけで応援を眺めていることに、ナジュミネは怒りが込み上げてくる。怒りのあまり、彼女の髪の毛が逆さに揺らめきそうな勢いだ。


「……そうか。ずいぶんと余裕だな! 【トラッキング】、【ラージ】、【ファイアアロー】」


「【レヴィテーション】。心にモフモフと余裕は必要だぞ!」


 ナジュミネが1つの大きな炎の矢を放ち、ムツキはモフモフの重要さを説きつつそれを躱しながら空へと飛んだ。


 しかし、【トラッキング】がついた炎の矢は当たるまで標的である彼を追尾する。


「飛べるのか。まるで鳥のようだな」


 ムツキはしばらく飛び回ってみるが、炎の矢が勢いを弱らせることなく追尾し続ける。


「さすがだな。速いし強いし持続力もあるのか。【ウォーターアロー】」


 なおも追尾してくる炎の矢をムツキは水の矢をぶつける。


 水蒸気の中から宙に浮いたムツキがナジュミネを見下ろしている。


「む。水で打ち消したか。では、これならどうだ! 【ラピッドファイア】、【スプレッド】、【ファイアアロー】」


 ナジュミネは次に炎の矢を連射し、さらに範囲を広げている。それによって、雨を逆さに降らせたように、地上から無数の炎の矢がムツキに迫ってくる。


「量が多いな。また水じゃ芸がない。【ウィンドウォール】」


 ムツキは風の壁を張り、炎の矢を目の前で燃え上がらせた。


「むむ。次は風か。どうした! なぜ攻撃をしてこない! 遠慮は無用だ、強度を上げるぞ! 【ファイアバレット】。【ファイアシェル】。【ファイアミサイル】」


 ナジュミネは、初速の速い魔法から遅いが威力のある魔法までを順に練り上げて詠唱していく。


 ファイアミサイルについては、並の人間なら数十人が消える範囲だ。


「じゃあ、そうさせてもらうさ。【テレポーテーション】」


 しかし、ムツキは瞬間移動でそれらの魔法を回避しつつ、ナジュミネの前に現れた。


「なっ!」


「遅い。【パラライズ】」


「うぐっ!」


 ムツキはナジュミネに魔力を込めた手刀を一太刀浴びせた後に距離を取った。


「……これは、ま、麻痺か?」


「正解だ。耐性無効なら状態異常にするのが常套手段だろ? 俺のは特別で、レベルの高い魔法や攻撃ほど出しにくくなるぞ」


「くっ! 麻痺だけにする魔法など聞いたことがない。【ファイアナパーム】」


 ナジュミネはとっさに攻撃魔法を口にするが、麻痺してうまく自身の魔力を変換できておらず不発に終わる。


「ぐっ……偏屈魔王め。妾をバカにしておるのか。攻撃をする価値もない、と」


「そんなことは……仕方ない。一撃だけ与える。これで降参してほしい。【ファイアアロー】」


 ムツキの【ファイアアロー】がナジュミネに、今まで彼女の放っていた【ファイアアロー】以上の速さで迫る。


「っ。【ファイアアロー】」


 ナジュミネも同じ【ファイアアロー】で対抗するも、彼のそれは威力が格段に上のようで太刀打ちできずに飲み込まれる。


「【マジックウォール】。ぐっ。消しきれぬ! あああっ!」


 それでも少し弱まった【ファイアアロー】がナジュミネの肌を焦がす。


 ムツキはとっさに【マジックウォール】と【ヒーリング】を彼女に施す。


「無理するな」


「……はぁ、はぁ、はぁ……。礼は言わんぞ。くっ、間違いなく妾より強いな。しかし、まだまだ負けぬ限り続けるぞ!」


 ナジュミネはムツキをそう評価し、強敵への絶望で表情を変えず、強敵と戦えていることへの喜びからか小さな笑みを浮かべた。

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