1-12. 単なる力試しだと思ったら誓約付きの神前試合(ガチ)だった(2/5)

 神前試合の舞台は、世界樹の樹海からも、魔人や人間の領地からも離れた最果ての荒野と呼ばれるただただ広い空き地のような場所だった。


 ムツキはもちろん、ナジュミネやプロミネンスも知らない未開の地である。


「すごいのう。よくこんなところがあるもんじゃな」


 ユウは、ムツキ、ナジュミネ、プロミネンス、そして、ケットと愉快なモフモフ応援団たちをこの場に転送していた。


「ここは昔から大して何も生えなくてね。世界樹からも遠いから、結局、放置気味になっちゃってるんだよね。あはは……。でも、ここならムツキも存分に戦えると思うよ!」


「そうかもな。負けらんないしな」


「そうだよ! がんばってね!」


 ユウは嬉しそうに話す。ムツキはこの一連がユウの仕業なのだろうな、と勘づくも自分には何もできないと判断し、諦めることにした。


「っと、そうは言っても、俺は、近接から遠距離、小さなものから大きなものまで、すべての攻撃をすべて返してしまうんだから、ナジュミネさんに勝ち目ないんじゃないか? 俺はラッキーだけどさ」


 ムツキはナジュミネやプロミネンスにも聞こえるようにユウに話しかけるが、ユウは問題ないといった仕草を返した。


「ちっちっちっ。神前試合では、そういうのも調整できるの。お互いに耐性や無効、自動反射はしない設定にしておいたよ!」


「それは、ご配慮どうもありがとう。果てしなくご都合主義だな……」


 ムツキは神の気まぐれに呆れ顔になる。


 続いて、ナジュミネがユウに問う。


「ほう。それでは、妾の炎耐性や魔法軽減もなくなっているということか」


「もちろん。純粋に力と力のぶつかり合いだよ! 武器の使用も、魔法の使用も何でもあり。その方が力量差もはっきりして楽しいでしょ?」


 ナジュミネの質問にもユウは答える。これらの配慮は、ガチンコ勝負ならナジュミネも納得するだろうとユウが考えた結果である。


「当然、望むところだ」


「仕方ない。がんばるか」


 ナジュミネとムツキはゆっくりと伸びをする。軍服とビジネスカジュアル姿が真っ向から対峙する光景が広がっている。


「あ、今だけなら呪いも解除できるよ?」


「な、なんだって! 本当だ! 脱げる! 脱げるぞ!」


「ご主人がすごい喜んでいるニャ」


 ムツキはそう聞いて、上半身のシャツを全て脱いでみた。さすがのユウもナジュミネも突然の半裸に驚いた。


「んふっ。いい身体」


「きゃっ! い、いきなり、半裸になるとは、どういう了見だ!」


「いやはや、ナジュミネ好みのいい身体をしとるじゃないか」


「そういう問題ではない! そなたも早く着るがいい!」


 ナジュミネは赤面しつつ、ムツキにそう言い放った。彼もさすがにまずいと思ったのだろう。いそいそと着始める。


「さて、最後の説明になるけど、勝利条件は、相手の降参、もしくは、相手の身代わり人形が消滅したら終了だよ」


 目の前にはお互いの形を模したぬいぐるみが座っていた。


「この身代わり人形を直接攻撃できるのか?」


 ムツキの質問に、ユウは首を横に振った。


「ううん、できないよ。私が身代わり人形と観客たちにムツキでも壊せないバリアを張るから。身代わり人形を消滅させるには、相手が一度死ぬくらいのダメージを与えればいいよ。」


「それ以上のダメージを与えたらどうなるんだ?」


 ムツキは何かに気付いたように口を開いた。


「……身代わりは死ぬ1回分だけだよ?」


 ユウはニコッと笑いながら、ムツキにそう告げた。つまり、2回以上死ぬような攻撃は控えなければいけない。彼は少し悩んだ後に口を開く。


「……分かった」


「妾も委細承知した」


 その後、ムツキとナジュミネは少し離れた状態でお互いに向かい合わせに立った。


「それでは、神前試合、始めっ!」


「さぁ、オイラたちも始めるニャ!」


「ニャ、ニャ、ニャ! ニャ、ニャ、ニャ! ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ!」


「ワン、ワン! ワ、ワ、ワン! ワ、ワ、ワン、ワン!」


「プゥ、プゥ! プゥ、プゥ! プゥ、プゥ! プゥ、プゥ! プゥ、プゥ!」


 ユウの掛け声とともに誰よりも早くケットと愉快なモフモフ応援団たちが楽しそうな鳴き声を上げる。


 今回、ねこさんチーム、いぬさんチーム、うさぎさんチームに分かれて、それぞれが三者三様の応援をするようだ。

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