1-4. 最強で万能だと思っていたら生活力皆無だった(3/3)

「にゃー」

「にゃー、にゃー」

「わん! わん!」


「言葉にできない……っ!」


 ムツキは前世から無類の動物好きだった。


 前の世界では、実家で犬と猫を1匹ずつ飼っていたが、世話は主に彼の母親と彼自身が行っていた。


 動物たちが何がなくとも擦り寄ってきて、撫でろと言わんばかりに構って構って攻撃をしてくるのが、ムツキにはたまらないのである。


「わん! ……くぅーん」


「苦しゅうない。もっと寄るといい」


「プゥプゥ」


「ウサギもいいよなあ」


 食事ができるまでの時間、ムツキは仔犬や仔猫、仔ウサギが嫌がらない程度にモフモフを堪能する。


 長毛種、短毛種、いろいろな違いはあれど、どれも素晴らしい毛並みにムツキの手が躍るように動き、彼の顔は崩れっぱなしである。たまに頬を寄せて、至福と言わんばかりの笑みを浮かべる。


「ご主人。ご飯ができましたニャ」


 ムツキはケットのそんな声が後ろから聞こえてきたので、触っていた彼らを名残惜しそうにしながらもゆっくりと立ち上がった。


「ありがとう。また後で頼むぞ」


「わん!」


 そして、手を洗った後に食卓へ着く。


「今日もいただく命に感謝ニャー!」


「いただきます。」

「にゃー、にゃー、にゃー。」

「ハッ! ハッ!」


 食卓には畑でとれた野菜、牧場で育てた家畜の肉などが所狭しと並べられている。ムツキの「一人では食事をしたくない」という希望により、何匹かが交代で一緒に食事を取ることになっている。


「ニャ」


 何匹かの猫が肉球の手で器用にナイフを使って肉や野菜を切り、切ったものをフォークで刺して、ムツキの口に運んでいる。


 食事不可の呪い。自分で食べることができない呪い。食べる動作をしようとしても無意識に食べる動作をやめてしまう。飲む動作はできる。よく分からない呪いである。


 結局、ムツキは、生活が困難になる様々な呪いが掛かっており、彼らの介護がなければ生きていけないレベルだった。


「最強じゃなくても、なんなら大して強くなくても自立した生活ができればよかったのに……」


「ご主人。人生、諦めが肝心ニャ。自分でできることをして周りを助けて、できニャいことは周りに任せるニャ。オイラたちがついているニャ」


「そうだな……」


 こぼれた不満をケットに聞かれて、人生を説かれてしまうムツキだった。


「ご主人が強いおかげで、この世界樹の樹海に棲む妖精たちは魔人や人間の侵略に怯えることもニャくニャったのニャ。そんニャに強いのに力で支配しようとしニャいのも素敵ニャ。そんニャ人のお世話をできるニャんて至極光栄ニャことですニャ。」


「ありがとう、ケット。そう言ってもらえると戦いも少しだけがんばれるよ」


 そして、ムツキがしばらく食事を皆と楽しんでいたら、階段の方からパタパタと軽い足音が聞こえてきた。


「ふわあぁ……。もしかして、昼ご飯?」


 その足音の主は、白いナイトキャップに薄青色の寝間着姿の幼い女の子だった。


 背中が隠れるくらいの長い金髪に透き通るような白い肌、澄んだような青い目をしている女の子は、お人形さんと呼ばれても遜色ないほど綺麗な姿をしていた。


「おはよう、ユウ。いや、晩ご飯だが」


「えっ……寝過ぎたあ」


 ムツキにユウと呼ばれる女の子は、彼の言葉を聞いて急いで階段を降りてきた。

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